第3話
目が覚めると、舟?ボート?に乗せられていた。水を弾く不思議な毛布に包まれて船底に横になっていた。
舟にオールはない。まあ、あっても今の私の大きさでは漕ぐことも難しかったけど…。
アラサーに一歩足を踏み入れていた私だったけれど、今は小学校低学年や幼稚園児程の大きさである。かなり縮んでいた。
毛布にくるまりながら辺りを見回すと、この舟はどうやら大きな川の流れに沿って進んでいるようだった。障害物にも当たらない不思議な舟だ。
舟の先と後ろにそれぞれ木箱が置かれていた。1つには猫のぬいぐるみとかわいらしいポーチそして、私がくるまっているのと同じ毛布がもう一枚入っていた。
もとあった場所に戻して、もうひとつの箱の中を確認する。食料品がたくさん入っていた。肉類に魚、果物にパンみたいなものが入っている。後はお水が革袋の中に入っていた。今はお腹もすいていないし、喉も乾いていないので戻しておく。
一通りの確認も終わったので辺りを見回してみる。森の中を流れている川のようで、川縁には、木々が生い茂っている。少し開けた場所では見たこともない動物たちが水を飲んでいる。
「しゅごい!」
思わず口からこぼれた言葉は、幼い子供のようになってしまった。声も幼くかわいらしい、少しハスキーな声をしていたので、かわいらしい声には憧れていたのだ。
なんで幼くなっているのか、ここはどこなのか、私は考えるのをやめて川の流れに身を委ねながらゆったりとした時間を過ごす。
馬車馬のように働く社畜にはこんな時間も必要なのだ。だって目が覚めたらまた、怒られて仕事を山のように振られるのだから。
舟の生活が始まって早3日。私は変わらず川の流れに身を任せている。いや、私も岸に上がろうと何度も考えたのだけれど、この舟は岸には決して近づかない。じゃあ泳げばいいのだが、この川にはピラニアみたいな凶暴な肉食魚が生息していて泳げないのだ。一日目にお肉を落として気がついたのだ。生きている人は食べないかもしれないけど、もしもを考えると怖くて試せない。
ちなみに、このときに気がついたのだか、私には猫耳と尻尾が着いている。尻餅をついたときに尻尾を下敷きにしてしまって、あまりの痛さに気を失ってしまったほどだ。
猫耳と尻尾を動かす練習をしたり、猫のぬいぐるみに舌足らずな言葉で話しかけたりと、忙しい時間を過ごしている。
ぬいぐるみを抱きながら、猫耳を動かす練習をしていると、ぬいぐるみが強く光始める。思わず投げ捨てると、そのままフワリと浮き始めた。
『蓄積魔力量が一定水準を越えました。初期設定を開始します。』
閉じられていた目が開き、綺麗なエメラルドグリーンの瞳が現れる。機械のような印象を受ける、AIのような響きの音声だった。
『マスターの名前を登録してください。』
「ユラ…」
『マスターユラ登録いたしました。次に個体名を登録してください。』
「個体名って貴女の?」
『はい、登録を行ってください。』
「えーと、ね、ネール」
『個体名ネール登録いたしました。初期設定完了いたしました。ナビゲーションシステム:フェアリー起動いたします。』
さっきよりも強い光に思わず目をつぶってしまった。
ネコミミ少女の回復魔法 @itameshinn0215
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