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………一通り解体作業を終えると、私は妻の欠片を数えたり積み上げたりして、別れを惜しんだ。
何時間経っただろうか………そうして思いつく限りのことをやり尽くし、すっかりからっぽになった頃、やっと妻を食べる決心がついた。
テーブルに何枚か皿を用意し、ダンボールの中から妻の欠片を掬い出してはそこに移した。
椅子に座り、目の前の皿を見つめる。
一つつまみ上げ、恐る恐る、口に含んでみる。
何とも言えない、不思議な味がした。
続いて2つ目、3つ目、4つ目………一定のペースで口に含み、飲み込んでいく。
目の前の皿の向こうには、さらに山のように盛り付けられたそれらが、テーブルいっぱいに並べられている。
今日一日で、食べ切れるだろうか?
妻の欠片はどんどん私の腹の中に溜まっていく。
それに連れ膨らんだ腹が痛んで苦しい。
まだ腕一本分しか飲み込んでいないというのに………人間一人を食べるというのは予想以上に大変なことのようだ。
それに段々気分も悪くなって来た。
全身から汗が噴き出す。
ああ痛い、苦しい。
痛い、痛い、痛い。
あまりの激痛にぐらりと傾いた身体ごと床に倒れ込んだ。
限界まで張り詰めた腹を抱え蹲る。
苦しい苦しい苦しい。
気持ち悪い。
吐き気する。
ごろごろとした違和感が込み上げる。
嫌だ、出したくない。
せっかく食べた妻の肉。
肉?
人間に肉なんかなかったんじゃなかったか?
そうそう、皮膚だ皮膚。
人間は分厚い皮膚で出来てるんだった。
参ったなぁ、そろそろ私も焼きが回ったか?
全身皮膚一枚の身体。
頭や手足なんかのパーツを胴体にくっつけて、たちまち人間の完成。
何て簡単なつくり。
私は今まで何を勘違いしていたんだろう?
全くどうかしてる。
そんな簡単につくられる人間が簡単に死ぬわけないのに。
ああ息が出来ない。
苦しい。
結局戻してしまった。
喉に詰まって痛い。
飲み込むんだ………そうすればすぐ楽になれるはずだ。
詰め込む詰め込む。
口の中いっぱいに硬い欠片を詰め込んだ。
息が苦しい………喉が痛い………それでも飲み込め………まだまだやれる………私は妻をこんなに愛しているのだから………私の妻………これでようやく一緒に………ほらもうどこへも行かない………私だけだ………。
意識が遠退く。
瞼を閉じる。
疲れてるんだ。
少し眠ればまた食べられるようになる。
大丈夫。
目が覚めたらまた会える。
だから、待っててくれ。
絶対に帰って来るから。
愛してる………。
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