第21話
「何で、お前がここにいるんだ?」
メイド服を着ているゴーレムは、イルスの家に居たゴーレムのうちの一体だった。
灰色の髪に紫色の瞳を持ったゴーレムはこちらに視線をよこすと、剣を鞘にしまってメイド服の裾を持ち上げながら挨拶をする。
「初めまして、ルーラ様。マスターの側近を務めてさせて頂いております、シルヴァと申します。この度はマスターからルーラ様の役に立てとの命令がございましたので、馳せ参じた次第でございます」
「は、ははっ……」
喋れるのかよ……。
ゴーレムだから勝手に喋れないものだと思っていたが、どうやらイルスが作ったゴーレムは喋れるどころか自我があるらしい。
俺が思わず笑みを零すと、シルヴァはキョトンとした顔でこちらを見る。
「いや、助かった。正直シルヴァが来なければ、俺は今頃死んでただろうからな」
「お礼を言う必要はございません。私はマスターの命令に従ってルーラ様の役に立つだけですから」
命令、ね……。自我はあるようだけど、忠実に命令に従うところは流石ゴーレムってところか。
俺は早速シルヴァに起きるのを手伝ってもらう。
シルヴァは俺の命令に従い、起きるのを手伝ってくれるが、起き上がったあとの俺は足がガクガクと震えていて、立っていることすら困難な状態だった。
「すまないな、俺は本隊を相手に出来ないようだ」
「謝る必要はございません。ルーラ様は先遣隊を相手に一人で戦って居られたのですから無理もございません」
「そう言ってくれると有難いんだが……いくら何でもシルヴァ一体で本隊を相手にすることは出来ないだろ?」
シルヴァがどれ位戦えるかは知らない。だけど、ゴーレムというものは術者以上に強くなることは無い魔法生命体だ。
そして、イルスが本隊を相手に一人で勝てるかと言われたら難しいだろう。
俺はその事を考えてシルヴァに言ったのだが、返ってきた返答は俺の予想とは違った答えだった。
「そうですね…ルーラ様の言う通り、私単体で本隊全員を倒すことは不可能です。ですが、マスターがルーラ様のために用意したゴーレムは合計20体。一体辺り45体と考えれば難しくありません」
「その他のゴーレムは見えないんだが何処にいるんだ?」
少し意地悪っぽく聞く。もし、これから用意してくれますとか言われても困るからだ。難しい難しくないは兎も角、希望的観測で命を掛けるのはあまり好きではない。出来ることなら確実に用意されている情報が欲しい。
「私以外のゴーレムは既に本隊のアンデッドと交戦しております。ルーラ様が命令してくだされば、私も他のゴーレムと合流して本隊のアンデッドを倒しに行くのですが、他に命令はございますでしょうか?」
なんだろうな……遠回しに早く命令しろと言われているような気がする。
まあ、他のゴーレムが居ることも分かったことだし、さっさと本隊を叩いてもらうとするか。俺は動けないから留守番だけど……。
「分かった。シルヴァ、他のゴーレムと合流して本隊を叩いてきてくれ」
「命令承りました」
シルヴァはそう言うと、本隊がやって来ていた方向へと走り去ってしまう。
そして、残された俺はと言うと……
「気休めにポーションでも飲んでおくか」
背負い袋からポーションを取り出すと、それを飲みながら近くの木箱の上に座るのだった。
あれから30分が経った。
時折、ゴーレムから抜け出したアンデッドがこちらに流れてくるが、急いでこちらに走ってきたシルヴァの手によって討伐されているので俺がしてることは何一つ無い。
なんだろう、こうも目の前で敵を倒されると消化不良な所があるな。
次アンデッドが来た時は先に倒してやろう……。
そう心に決めると、俺は背負い袋から余っている魔法紙スクロール2枚を出すと、何時でも使えるように剣帯に挟んでおく。
さあ、早くアンデッドよ来い!
アンデッドが来て欲しいと思ってるあたり、まだ疲れているのかもしれないな。
俺は自嘲しながらアンデッドが来るのを待つことにした。
だが、結局このあとアンデッドが来ることはなく、シルヴァから本隊を全滅させたという連絡が先に来るのだった。
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