第20話
「くそっ!なかなか減らない!」
先遣隊の中に突っ込んでから30分。10数体のアンデッドを倒すことには成功したが、それでも残っているアンデッドの数は30を越えている。
そろそろ後続の本隊がやって来るのに先遣隊を全滅出来てないのは痛すぎるぞ!!
後ろからやってくるであろう本隊に気を取られてしまい、目の前の敵に集中出来ない。それに焦りと不安でミスを連発してしまい、何度も危ない状況を作り出している。
このままじゃ本隊がやってくる前に先遣隊は倒せない……。一旦、距離を取って冷静になるか。
俺はアンデッドの攻撃を弾くと、そのままバック走行で距離をとる。
「それにしても厄介だな」
俺が距離を取ると、先遣隊は追撃をやめて陣形を組み始める。
前に見た時もそうだが、ここのアンデッドは陣形を組んで効率的に敵を排除する。
別に、普段戦うなら陣形を組まれようと、時間を掛けて倒せばいいのだから気にしない。だけど今に限っては違う。本隊がやって来るまでにこの先遣隊を倒せないと、時間を稼ぐことすら不可能になってしまうのだ。
いや、まあ……別に先遣隊を倒せたとしても本隊相手に時間を稼げるとは思ってないけどな。
頭をポリポリと掻きながら先遣隊の後ろを見ると、本隊こそ見えないが、重い気配が感じられた。
きっと、あと20分もしないうちに視界には本隊が見えることになるだろうな。
再度、本隊の状況を確認したところで視界を先遣隊に戻す。するとどうやら陣形は組み終わったようで、今にもこちらに攻めようとしていた。
「やれやれ、冷静になる以前に休憩もさせてくれないのか」
握っていたダガーをさらに強く握りしめると、相手が攻め込むより先に陣形を崩す作業に入る。
と言っても、陣形を崩すのは簡単で陣形の中へ侵入すればいいだけだ。最初見た時は、俺も陣形を組まれるのは不味いと思ってたんだが、マロンはアンデッドに戦い方を教えている上で1番大事なことを忘れていたらしい。
アンデッドの頭は空っぽということを。
そもそも、アンデッドは生前の強い執着心等が死体に残ることによって生まれる存在で理性というものがない。
あの時戦った衛兵は、自分がアンデッドになっていることに気づいてなかったから普通に理性があったようだが、それが無ければアンデッドはただ本能の赴くままに生者を襲うだけの化け物だ。
まあ、陣形を組まれたら一々その中に入らないといけないのは危険で厄介なことには変わりないのだけど。
アンデッドの組んだ陣形に入ることが成功した俺は、出来るだけ沢山の敵に攻撃を当ててから陣形の外へと出る。
アンデッドは俺に攻撃されたことによって怒り狂い、陣形を乱しながらそれぞれ俺が先程までいた場所を攻撃し始める。
だが、既にそこには俺は居ないので、繰り出された攻撃は味方のアンデッドにあたり、数体のアンデッドが帰らぬアンデッドとなった。
陣形を組むのはいい事だ。だけど、アンデッドが組んでいる陣形はお互いの距離が近すぎて、攻撃が当たってしまう。戦闘経験のないマロンが考えたから素人陣形になるのは仕方ないが、もう少し考える事は出来ただろうに……。
まあ有り難く利用させてもらってるから何にも言えないがな。
俺は再び距離を取りながら、アンデッドのことを観察する。
するとアンデッドは陣形が原因だということに気づいたようで、陣形にオリジナリティを加えてお互いに攻撃が当たらない距離の陣形を組み始めた。
「理性はなくても学習能力はあるのか……」
マロン製のアンデッドが特別なのか、はたまた全アンデッドに共通しているのかは分からないが、いいことを知れた。
今後のアンデッド戦では、アンデッドの持つ学習能力も有効活用させてもらうとするか。
俺は今後のアンデッドとの戦いが楽しみに感じながら、残りのアンデッドの内の5体を切り飛ばす。
「今まで陣形を組んでいる間攻撃しなかったからって油断は良くないぜ」
切り飛ばされたアンデッドを見て、残りのアンデッドは別々に俺に襲いかかってくる。
「甘いっ!」
最初に襲いかかってきたアンデッドをダガーで切り伏せると、距離を取りながら二体目のアンデッドを切り飛ばす
最初にアンデッドと戦った時は全然手足も出なかったが、徐々にこの体に慣れたようで、今は思うように体が動く。
とは言っても元の体は少女。時間が経つにつれて動きは悪くなり、遂にはアンデッドの攻撃が俺を捉える。
「ぐッ……ガハッ!」
アンデッドの一撃によって吹き飛ばされた俺は、家屋の壁にぶつかると、ドサッという音と共に地面に落下する。
苦しい……。
口からは血の味がし、呼吸をするとヒューヒューという音が聞こえ、内蔵を傷つけたのが分かる。
急いで起き上がろうとして手を地面につけるが、体が重く持ち上がらない。
くそっ…残りのアンデッドは一体だって言うのに……。
本隊は遠くから見える位置まで近づいて居たが、余っているポーションを飲めば、ある程度は回復出来るつもりだった。
そのために先遣隊の最後の一体を倒す必要があったのだが、どうやら天は俺を見放したらしい。
最後の最後で疲労が原因で体の動きが悪くなるとはな。
既に俺は戦うことを諦めている。何故なら、ポーションで回復できるのは怪我だけで疲れはとれない。つまり残りのアンデッドを倒しても、俺には本隊を足止め出来る手段が無いのだ。
それにしてもあのアンデッドは何をしているんだ?
アンデッドが追撃してこないのに疑問を感じて、俺は体を必死に動かして顔を上げる。
「なっ!!」
すると、顔を上げた先、先程までアンデッドが居た場所には、メイド服を着たゴーレムが一振りの剣を持って立っていた。
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