第19話
ルーラが戦うことを譲ってくれたことに感謝しながら、私はマロンと向き合う。
酷い顔……。
ルーラが使ったフレイムの魔法紙スクロールにより、マロンの顔の皮膚は爛れていて、その顔は化物と言われても過言では無いほど酷かった。
「あなたとは話したいことも色々とあるんだけど、長ったらしくなるのは嫌だから一言に纏めさせてもらうわね。・・・私のために死んで」
私がそう言うと同時に、マロンの足元で一つの魔法陣が浮かび上がる。
「イグニション!!」
ボウッ!という音と共に発動した魔法は、マロンの身体を炎で包んだかと思うと、スグに消える。
本来ならこの魔法でマロンを燃やして牽制とダメージを与えるつもりだったのに、ルーラが先に燃やしたせいで大してダメージを受けているようには見えない。
まあ、それも仕方なしね。そもそもイグニションは着火の役割を持った魔法で素の威力が低いからね。むしろ、ここまで攻撃的な魔法に出来た私を褒めて欲しいわ。
「・・・・・・」
「相変わらず無口なのね。その口はなんのためについているのかしら?」
「・・・!!」
私に煽られたマロンは、血で出来た剣を作ると、それを片手に斬りかかってくる。
「煽られて怒るぐらいなら、最初から喋った方がいいと思うよ。エアシールド!」
「・・・ッ!?」
マロンは渾身の一撃が防がれたことで動揺している。その隙に私は距離をとってある魔法を構築し始める。
「・・・!!」
私が魔法を構築し始めて少し経ち、ようやく冷静になったマロンが攻撃を再開しようとするが、もう遅い。
私は完成した魔法陣をマロンに向けると、魔法を発動させる。
「弾けろ……ブル、サンダー!!!」
巨大な魔法陣から出てきた黒い雷の玉がマロン目掛けて飛んで行く。マロンは防御しようと身構えるが、この魔法は防御を無視する私の最大最強の魔法だ。絶対に防げない。
黒い雷の玉はマロンが構えた剣を通り過ぎ、マロン本人に直接ぶつかる。刹那、大きな音と共に青白い閃光があたりに飛び散った。
●〇●〇●
「凄いな……」
俺はイルスが発動した魔法を目にして思わずそう声を漏らす。
確かあの魔法は俺も受けたことがあったが、あの時よりも威力は高く、鋭い一撃になっていた。
「もし、あの時イルスが本気で戦っていたら、今頃俺はこの世には居なかったな」
イルスが優しい魔女でよかったと思うと同時に、勝負がまだ終わってないことに俺は気づく。
イルス渾身のブルサンダーがマロンに直撃した位置で、未だ立っている人影が見えたからだ。
「イルス気をつけろ!マロンはまだ──「きぃぃぃぃぁぁぁあああああああ!!!!」
俺はイルスに届くように大きな声を上げるが、俺が声を上げると同時に砂埃の中に居たマロンがあの時と同じ奇声を上げる。
「くそっ!仲間を呼ばれたか…」
イルスもマロンが生きていることに気づいたようだが、既に増援は呼ばれてしまった。ここから先の戦いは困難を極めること間違いなしだ。
そして、そろそろ俺も戦闘の準備をしないとな。
俺の仕事はイルスがマロンとの戦いに集中出来るようにすること。だったら増援で呼ばれた敵は俺が相手しなければならない。
一度撤退した時に見た1000を超えるアンデッドを思い出して体の震えが止まらなくなるが、これは武者震いだと自分に言い聞かせると、戦闘準備を整えて屋敷の外へと出る。
「ああ……この数相手に1人は絶望しかねぇよ」
屋敷を出た俺の目の前には既に先遣隊だと思われるアンデッドが居た。その数ざっと50体。
元の体でもキツいと感じる敵の数を、俺はまだ慣れてない少女の体で相手しなければならない。
しかも先遣隊ってことはこの後に本隊もやって来るんだよな……逃げたい。今すぐここから逃げたい。
もしも今逃げたら、一人の賞金首が死体で発見されるだけで世間は何も感じないし、協会は無駄な人員を割かなくて済んだと喜ぶだろう。
「だけど、今ここで逃げたら俺はルフィアの情報が聞けないし、マロンを人間に戻して殺すことも出来ないからな」
俺は心の褌を占め直すと覚悟を決める。
いや、一度死んだような俺が今更死を覚悟したところでって話か。
自嘲しながらダガーを片手に構えると、俺は敵陣へと走り出した。
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