第18話
「ようやくか」
アンデッドとぶつからない様に避けながら進むこと早5時間以上。
ようやく、町長の館の前に着いた俺は背負い袋からフレイムの
ゴオッ!
勢いよく発動したフレイムの魔法は町長の館へと燃え移り、近くの枯れ木を勢いよく燃やしながら、館を燃やし始める。
やっぱり、木製の家だとよく燃えるな。
俺は町長の館が燃えているのを見て、道中で考えた作戦を再確認する。
まずはフレイムの
この作戦が成功した際のメリットは、恐らくここに居るであろうマロンを外に出すことが出来ること。
室内戦闘では武器の長さが短い方が有利になる。俺の持っているダガーは刃渡り30cmと短いが、それでも室内で戦うとなると少し不安が残る。
そして、出てきたマロンをロックウォールによって隔離することによって、イルスを探すまでの時間稼ぎと、アンデッド呼ぶために叫ばれても、アンデッドの耳には届かないようにすることが出来る。
あとは、吸血鬼に呼吸が必要なら窒息死させることも可能だな。
自分で言うのもなんだが、完璧な作戦だ。相手が水の魔法を使えるならその時点で無意味となる作戦だが、魔法が使えない相手なら十分効果のある作戦。
だけどもし、一つ心配する点があるとすれば……。
「こういうのって、作戦前や作戦途中に言うと失敗するということだよな」
そして、案の定それは当たってしまったらしい。
館から飛び出てくる人影を察知して、急いでロックウォールの魔法紙スクロールを使おうとしたのだが、出てきたのはマロンではなくてイルス。
しかもイルスは誰がどう見ても重症と答えるほどの怪我を負っていた。
「イルス、お前そんなにボロボロになって……誰にやられたんだ!?」
「君だよ!ルーラだよ!!」
うっ、やっぱり誤魔化せないか。アンデッドに罪を擦り付けたかったんだけどな……。
「悪かった、ごめんなさい。治療用にポーション渡すから許してくれないか?」
ポーションを背負い袋から取り出すと、イルスに渡す。
「まあいいわ。それよりもどうしてルーラは館を燃やしたの?せっかく、あそこにはマロンが居たのに」
イルスは受け取ったポーションを浴びるように飲みながら、どうして館を燃やしたのか、少し怒っているような感じで聞いてくる。
「いや、なに。室内戦闘では武器があると不利になる。それに、もしマロンがアンデッドを呼んだ場合、狭い空間で沢山のアンデッドを相手をすることになるからな」
「驚いた。そこまでしっかりと考えた上で館を燃やしたのね」
イルスは驚いたようにこちらを見ているが、逆に何も考えずに燃やしていたらどんだけ燃やしたがりな性格なんだよ。
それに、マロンがここに居るなら燃やして正解だったな。幾ら吸血鬼といえど、火には耐えられない。
あとはここで火が鎮火するのを待ってからマロンの死体を探せば終わりだな。
俺は背中を館の敷地内に生えている木に預けると、今なお燃え盛っている館を目に今後のことを考える。
この戦いが終わったら、北の魔女……ルフィアを探す旅に出ることになる。出来れば、イルスから少しでも情報を聞けるといいんだが、同じ魔女だからと言って情報を共有しているわけじゃない。
何の情報も無しに、たった1人の人物を探しに旅に出るのは馬鹿のやることとしか言えないな……。やっぱりイルスから何か情報は無いか聞いておくか。
そう思い、イルスの方へ振り向くと、イルスが真剣な顔で館の方を見ているのに気がついた。
「そんな真剣な顔をして、一体どうしたんだ?」
「なにか……くる!」
イルスはこちらに視線を寄越すことなくそう言うと、持っていた魔法杖を構えて戦闘態勢になる。
「なにか来るって、一体何が来るっ!!」
その瞬間、館の周囲一体に冷たい空気が流れた気がした。
気が付いた時には俺もダガーを抜いて戦闘態勢になっていて、体が館の方へと向いていた。
そこから十数秒が経った時、館から一つの影が飛び出してきた。
「マロン……ッ!」
「あの炎の中で生きていたのか!?」
いや、それよりもあれはマロンなのか……? マロンと思われる人物は、元の面影が見えないほど火傷によって皮膚が爛れている。
ここまで来たら吸血鬼と言うよりはアンデッドと言われた方が納得いくな。
俺が1人で勝手に納得をしていると、横からイルスが小さな声で話しかけてくる。
「ルーラ、お願いがあるんだけど、マロンと戦うのは私に譲ってくれない?」
「どうしてだ?」
「前にも言ったけど、マロンには個人的な恨みがあるのと、アンデッドを呼ばれた時に、2人でマロンと戦っていたら対処が面倒くさいと思うのよ。だからルーラには呼ばれたアンデッドのみの対処をして欲しいわけ」
別に、俺はマロンと戦いたいとは思ってないから全然それでも構わないのだが……個人的な恨みか。
「……分かった。それで構わないから、この戦いが終わった後、魔女ルフィアの情報を知っている分だけ教えてもらうからな」
「ありがとう」
俺は抜いていたダガーを納めると、再び木に背を預けて、イルスとマロンの戦いを見守ることにした。
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