第17話

 頭が妙にスッキリする。

 思考にずっとモヤが掛かっていたのが晴れたようにスッキリとした頭は、俺に最高の朝を届ける……はずも無く。すぐさま、意識を失う前のことを思い出す。


「イルスめ……」


 俺が警戒を解いた瞬間を狙ってディスペルの魔法を掛けてきたな。いやまあ警戒を解いた俺が悪いんだけど、それでも愚痴の一つは言いたくなる。


「それにしても、今は余りマロンのことを救いたいとは思えないな」


 いや、救えるなら救いたい気持ちは変わってはいない。

 だけど、意識を失う前に思っていた『救えるなら救いたい』とは違い、自分の命が無事ならという条件が今は付いてきている。


 もしかして、本当にマロンから魅力を掛けられていたのか?と自分を疑いたくなるが、今はそれは置いておくとしよう。

 もしかしたら、イルスから魅了を掛けられた可能性だってあるからな。


 疑いすぎと言われるかもしれないが、これは傭兵として生きていくためには重要なことだったから仕方が無い。疑いすぎが丁度いいのだ。


 流石に起きるか。

 ベッドから降りて部屋から出ると、そこには誰も居ない。


「あれ、イルスは居ないのか?」


 流石に家だからいるとは思ったんだけどな。トイレにも居なさそうだし……どこかに出かけているのか?


 水を飲もうとして、コップが置いてある机に近づくと、机の上に1枚のメモが置いてあるのが目に入った。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 マロンへ


 もし私に協力して一緒にマロンを倒してくれるなら、急いであの街に来て欲しい。

 本当はゆっくりと話し合って協力する予定だったけど、時間が無くなったからここにメモだけ置いておくね!!

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「協力は俺が頼んだんだが」


 まあいい。イルスが協力してくれるなら、一先ず味方戦力の確保は終わりでいいだろう。

 それよりも今はこのメモについてだ。


「行くしかないよな……」


 行ったら厄介な事に巻き込まれそうだが、元々は俺がマロンに助けてもらったことから始まった出来事だしな。俺が最後まで付き合わないのは傭兵以前に人として駄目だろう。


「まあ、行くにしても……」


 作戦、命を大事に、だ。


 ●〇●〇●


「ふう。さっきよりもアンデッドが凶悪になっているな……」


 街に侵入することに成功した俺は、二階建ての民家に隠れながら街を見下ろす。

 街の中にいるアンデッドは、街の入口に居るアンデッドとは違い警戒をしていない。だけど、生者の気は探れるようで、少しずつ俺の方に近づいてきている。


「ここがバレるのも時間の問題か」


 俺はアンデッドから見えない位置の窓から外に出ると、マロンが居るであろう町長の館へと路地裏をこっそり通って向かう。


「今のうちに、マロンの倒し方を考えとくか」


 と言っても、考える必要があるのはアンデッドを呼ばれない状況の作り方だけなんだがな。それ以外は正直言って対策しようが余り変わらない。

 出来ればマロンを無力化して捉えたかったが、それをするにはアンデッド全員を倒す必要があるから諦めるしかない。


「それにしても、ほんっと!詰んでいるよな!!」


 行く先にいたアンデッドを切り伏せながら、走り進む。


 ここまでアンデッドが居ると、路地裏も警戒しだすのか?

 俺の今居る場所は、まだ下流階級の人達が住む区画の真ん中と言ってもいい。

 奥に進むにつれてアンデッドの数や質が上がることを考えると、この場所で路地裏も警戒するアンデッドが居るのは非常に不味いことになる。


 こいつが自分の意思で路地裏に来たんだったら、よかったんだけど……ないか。


 自分の意思で行動するアンデッドは殆どと言っていいほど居ない。アンデッドには意思というものが存在しないからだ。

 アンデッドが行動する理由は主に3つと言われている。


 1つ目は、生者ならなりふり構わず襲うアンデッド。

 大半のアンデッドがこの1つ目に当てはまる。


 2つ目は、生前の記憶の強い思い出にしたがって行動するアンデッド。

 生前の意思が強くて、無念の死を遂げた場合によく生まれるアンデッド。生前の記憶で最も強い思い出に従って行動するから、たまに無害なアンデッドが生まれることもあったな。


 そして最後の3つ目は、圧倒的な支配者の意思の元に動くアンデッド。

 これは今回のパターンで、圧倒的な支配者はマロンのことを指している。もし、マロンが路地裏警戒の指示を下流区画担当のアンデッドにまで流していたのなら今回のことは納得出来る。

 だけど、路地裏は下流階級の区画ほど広く沢山あるため、警戒の指示を出すなら中流~上流階級の住まう区画のみに出すのががセオリーだ。


 もしかしたら何か策があるのかもな。流石に知らなかったということは無いと思うが、念のためそのことも頭に入れつつ路地裏を進み続ける。

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