第16話


「はあ?」


 俺が魅了されている?馬鹿馬鹿しい。

 もしも俺が魅了されているなら、今ここでイルスを殺そうとして襲いかかっているはずだ。マロンはイルスを敵対視していたからな。


 俺がその事をイルスに伝えると、イルスは「魔女だから、魔法に関することや近いものは感じやすいのよ」と言って、ディスペルの魔法を俺に掛けようとする。


「なんで避けるの?」


 イルスは俺がディスペルの魔法を避けたことに怒っているようだが、当たり前だ。


「誰だって魔法を向けられたら避けようとするもんだろ?」

「はあ、もういいわ」



 やっと諦めたか。イルスが構えていた腕を下ろしたのを見て、俺も警戒を解く。

 すると、俺が警戒を解いたのと同時にイルスは俺が反応できない速度で魔法を発動する。


「ディスペル!!」

「ぐっ、ああああああ!!!!!」


 ディスペルの魔法に痛みは無かったはずなのになんで頭が痛いんだ!?

 くっ……痛い、痛い、痛い痛い痛い!!!


 イルスがディスペルを撃ったことで襲ってきた頭痛に耐えきれず、俺の意識は沈んでいく。


 ●〇●〇●


「ふう、やっぱり魅了にかかっていた」


 私は目の前で倒れたルーラを寝室のベッドに運びながら、今後のことを考える。

 まず間違いなく、魅了を解いたのはマロンに伝わったはずよね。

 魅了は元々、戦争が溢れていた時代に作られた魔法で、敵の情報を得るために作られたと言われている魔法。


 少し前に私も覚えようとしたことのある魔法だったけど、その難しさに諦めたんだっけ。

 少し昔を思い出して思い出に浸りたくなるが、今はその時ではない。顔をパンパンと叩くと、対マロンに向けて作戦を考える。


「まずは魅了から解除されたルーラの説得よね」


 これは最重要な課題。正直悔しいけど私ひとりではマロンを倒すことが出来ない。強いとか弱いとか関係なしに相性が悪いのだ。

 私は魔女だけど、戦闘方面は一般の魔導士に毛が生えた程度しかない魔女だ。対するマロンは元一般人とはいえ吸血鬼。種族の地力が高く、それだけで五分五分に持っていかれてしまうほど私は戦闘能力は高くない。


 更に私のメインの戦い方はゴーレムを用いた複数対一を作り出す戦い方なのに、マロンの魅了に掛かったアンデッドがいる以上、複数対一を作り出すのが不可能になっている。


 正直、勝てる見込みがない。だからこそ、ルーラを絶対に味方にしなくてはいけない。

 そのためには何が必要か、ルーラが味方になってくれる条件を考える必要がある。


「どうしたらルーラが味方になってくれるのか」


 彼女には可笑しい所がいくつもある。

 強くないのに戦い方は分かっていること。

 感情に振り回されてるくせに理性的なところ。

 そして何より男っぽいところ。

 ここまで見ると、戦闘色の仕事に就いていた男が突然女の子になったとしか思えないほどね。


「だからこそ、交渉内容を間違えてはいけないのよね」


 近くの棚からクッキーを取り出すと、それを口にしてティータイムの用意を始める。

 いい案が思いつかない時は甘いものでも食べて一旦休憩するといいよと教えてくれたのは今は亡き友人だ。


「うん、やっぱりゴーレムに任せるお菓子も美味しいけど、私が作る方が100倍は美味しいわね!」


 ルーラが起きるまではまだ時間もあるし、私はいい案を思いつくように頭をリセットするための、つかの間のティータイムに入ることにした。

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