第15話
「ふう、ようやく戻ってこれたな」
最初に来た時は二層の奥深くにあった魔女イルスの家の入り口だが、今は二層入口から余り離れてない位置に移動していた。
ここだけを聞いたら普通の人は、なら前回来た時よりも早く着いたんだねとなるかもしれない。だが、実際はイルスの掛けた隠蔽の魔法が完璧で入口に気付くのにさえ30分掛かり、隠蔽の魔法を解除する時間も合わせたら1時間は超えただろう。
それにしても……。
「どうやってここまで移動したんだか」
俺が想像していたよりも魔女という存在は巨大な力を持っていたらしい。
ドアを前にして思わずため息を零す。
この様子だと、他の魔女も俺が想像しているよりは確実に強いだろうな。
これからのことを考えると自分に待ち構えているであろう苦難に思わず顔を顰めるが、このまま進まないわけにも行かない。
「イルス、居るか?」
ドアを開けながらイルスを呼ぶと、すぐにイルスが寝室の部屋から出てくる。
「戻ってくるの早かったね」
「ああ、色々あってな。ところで協力の件についてだが、マロンを生かして捕らえるということは出来ないか?」
イルスはマロンと因縁がある。だから無理な可能性の方が高いが、それでも聞いとかないとあとで俺が後悔するだろう。
イルスは悩む素振りをするが、すぐに「それはむりね」と否定する。
だろうな。元々、無理なお願いをしてるのは分かっていたからな。だけど、俺にはもう一つ聞きたいことがある。むしろこっちが本命なところもあるんだが……。
「そうか。ならついでに1つ聞きたいんだが、血鬼病を治す薬とかは知らないか?」
「……っ!」
やっぱり間違いない。イルスは血鬼病を治す薬を知っている。
最初にイルスが血鬼病について話していた時もそうだが、やけに血鬼病に詳しすぎた。専門家や魔女だからと言えばそれで終わるかもしれない。だけど、所々に違和感を感じることがあった。
まあ、薬について聞くことにしたのは傭兵としての感が8割ほど占めていたのだが、聞いてみて間違いはなかったようだ。
「頼む。イルスはマロンに因縁があるかもしれないが、俺はマロンに命を救われている。だから、助けられるなら助けたいんだ。頼む、俺に血鬼病を治す薬を教えてくれ!」
俺は頭を下げてお願いをする。
たまに勘違いする奴もいるのだが、傭兵だからといって全員が全員横暴だったりする訳じゃない。むしろその逆で一定以上の実力を持つ傭兵は礼儀正しい者が多い。傭兵は冒険者と違って組合的な組織が無いから自分で依頼を探さなければならないしな。
だからと言って俺が礼儀正しい訳じゃないし、今しているお願いは礼儀正しいだけでは叶うことの無い願いだって分かっている。
ならそんな時はどうするのかって?
賄賂だよ。
イルスに賄賂が聞くかは分からないが、道中狩ってきた兎をこのまま腐らせるのは勿体ない。ダメもとで渡してみるしかないだろう。
「ああ、あとこれ道中で狩った兎なんだが、よかったら貰ってくれ。別に深い意味は無いぞ」
背負い袋から兎を1匹出すと、近くにあったテーブルの上に置く。
「賄賂?」
「バレたか?」
「いや、流石にこの話の流れで物を渡すのは怪しいでしょ」
「そうか……」
そりゃそうか、流石にバレるよな……。てか、今の流れで出そうと思った自分がどうかしている。
最初に出せば賄賂とバレなかったかもしれないが、後悔しても、もう遅い。それにどうせ賄賂とバレたのなら、背負い袋に残っているもう1匹の兎は必要ないだろう。
背負い袋に入っているもう1匹の兎を出すと、テーブルの上に置く。
「出来れば賄賂は無かったということにしてくれ」
「一応言っとくと、それも賄賂だからね」
「あっ……」
もう、何を喋っても賄賂と受け取られる気しかしない。俺が言葉に詰まっていると、イルスが小さな声で「でもまあ、条件次第では教えてもいいかな」ともらす。
「本当か!?」
ダメだと思っていたが、条件次第では教えるとの言葉に俺は思わず顔を上げる。
「私とマロンを一対一で会話させることが条件ね」
「殺しはしないよな?」
「殺しはしないわ。死にはするけどね」
「なっ……!」
イルスの口から出た言葉に俺は思わず言葉を失う。
元々協力体制を組むために戻ってきたから、どうしても殺すと言われたら諦めるつもりだった。だけど、血鬼病を治す薬を条件次第で教えてもらえることになったのに、その条件でマロンが死ぬのは本末転倒だ。
「話が違う、とは言わないでね。私が作った薬はあくまでも血鬼病を治すための薬で、その副作用が服用者の死亡なのだから」
「そんなの薬とは呼べない」
「血鬼病が治ってから死ぬのだから一応は薬よ」
「でも!」
「でもって言われても……。そう言えばずっと気になっていたんだけど、やけにマロンを救いたがるわね」
イルスは一体何を言っているんだ?
救える命があるなら救いたい。これは人として普通のことだろう。
確かに自分にとってメリットがないなら、人を救いたいとは思えないかもしれない。だけど、マロンには命を救ってもらった恩がある。救う理由はそれだけで充分だ。
「俺の命の恩人だからな。それに救える命があるなら救いたいと思うのは普通だろ?」
「それはそうだけど、私が言いたいのはそうじゃないの。うーん、なんて言ったらいいんだろう……」
イルスは手を頭に置くと何かを考え始め、暫くすると「もしかして」と言ってこちらを見る。
「多分だけどルーラ、あなた魅了されてない?」
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