第14話

きぃぃぃぃぁぁぁぁぁぁあああ!!!!」

「ぐっ!」


 マロンまであと少しというところまで来ていたが、突然甲高い声で叫ばれたことによって思わず耳を塞いでしまう。


 なんだ、何がしたいんだ?

 顔を顰めながらマロンを見るが、マロンは叫んでいるだけで何もしてこない。

 俺の攻撃を止めるため?いや、それは無い。俺の攻撃を止めるために叫んでいたならもう叫ぶのを辞めてる。

 なのに、今も叫び続けているということは他になにかあるはずだ。周囲を見渡してみるが変わった様子はない。


 くそっ、何を狙っている。

 周囲に変わった様子はないということはマロン自身か、俺から見えない位置で何かが起きているのか?

 マロンをよく観察してみるが、マロンにも特別変わった様子はない。


 だとしたら、俺の見えないところで何かが起きていると考えた方がいいな。耳を塞いだ手で地面に落ちたダガーを拾うと、一度納剣して背負い袋の中へと仕舞う。

 マロンは先程まで叫んでいたが、俺がダガーを背負い袋に仕舞うのを見ると、叫ぶのを辞めて俺の方を見てニヤニヤと笑う。


 俺が諦めたと思っているのか? マロンの反応はそうとしか思えない。だけど、俺は諦めたわけじゃない。一度、戦略的撤退を取ることにしただけだ。

 ダガーを仕舞う次いでに取り出したフレイムとウォーターアローの魔法紙スクロールのうちのウォーターアローを使い、マロン目掛けて攻撃する。


「がっ!」


 やっぱりマロンは俺が諦めたかと思っていたようで、四肢を狙った攻撃は見事に命中してマロンを家の壁に縛り付ける。


「じゃあ逃げるか」


 ウォーターアローで出ていた水の矢はしばらく消えない。

 追撃したい気持ちもあるが、マロンの叫びが何を意味しているか分からない以上は追撃をするのは危険でしかない。

 フレイムを腰の剣帯に無理やり差すと、そのまま後ろを振り返らず走り出す。


 途中、置いてあった木箱を使い屋根に登ると、今度は屋根伝いに逃げる。


「なっ……!」


 なんだこれは!?

 俺は思わず大きな声を出しかけたが、急いで自分の手で口を塞ぐと、屋根の傾斜を使って隠れる。

 今のは俺の見間違いか? いや、見間違いだと信じたい。

 俺はこっそりと屋根から先程見た街道を覗き見ると、そこには約1000を超えるアンデッドが隊列を組んでマロンの方へと歩いていっていた。


 嘘だろ……。

 もしかして、あの時のマロンが叫んだのはこのアンデッドを呼ぶためなのか?

 だとしたら、あの時追撃のためにあの場に残っていたら……。

 俺はありえたであろう事態にゾッとすると、その場からこっそりと離れる。


 不味い状況になったぞ。

 イルスが言っていたマロンの味方になったアンデッドはもうこんなにも居たのか!?

 俺は対人が主な傭兵として生きてきたが、一度の戦場で1000を超える敵を一人で相手にしたことは無い。

 いや、この場合は対人と言えるのか? 確かに生前は人であったかもしれない。だけど今はアンデッドだ。……対人とするのは辞めよう。


 だが、対人じゃないとしてどうする? 敵がアンデッドな以上、一般人でもある程度は肉体が強化されている。1体や2体、3体等であれば同時に戦ったところでその恩恵は少ないだろうが、1000体を同時に相手するとなるとそれは大きなものになる。


 こうなったら、イルスの元に行くのが1番いい選択か。

 今朝に保留と言った手前、自分がピンチになったらすぐに協力体制を作ろうとするのはクズのやることだが、一人で勝つ見込みがない以上は協力体制を取るしかない。


 屋根を伝ってバレないように街の外へと出ると、その足でイルスが住むアルダーヌダンジョンへと向かう。


 道中、協力の可能性を少しでもあげるために土産の兎を狩ったのは言うまでもない。

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