第13話

「明日まだに考えておいて、か……」


 イルスに用意されたフカフカのベッドで横になりながら俺は先ほどの会話を思い出す。

 あの後イルスは少し他の話をした後「今日はもう遅いから」と言って、この家に泊まることを勧めてきた。

 俺もどっちの味方になるべきか考えたいこともあってその時は了承したのだが、今思えば無理してでも帰れば良かったかもしれない。


「マロンには恩があるからな……」


 疑いたくない気持ちもあるが疑うしかないこの状況。

 もしイルスがこれを狙って俺を生かしたのだとしたら見事にイルスの策略にハマっているな。


 受けた恩を返さないのは傭兵として失格だけど、それで自分の命を捨てることになるなら俺は受けた恩を持ち逃げするだろう。


「……明日のことは明日の俺に任せるとするか」


 俺は明日の自分に全てを任せるとベッドに潜って目を閉じる。


 ●○●○●


「おはよう、ルーラ」

「おはよう。そして何故同じベッドに居るのか聞きたいんだが」

「いやこの家、ベッド一つしかないの」


 目が覚めたら同じベッドに魔女が寝てるとかなんのホラーかと思ったが、ベッドが一つしかないなら家の主はそこで寝るだろうな。そりゃあそうだ。でも、イルスは完全に俺の味方になったわけじゃない。

 俺はベッドから降りると、近くの椅子を引っ張ってきてそこに座る。


「イルス、昨日の話なんだが取り敢えず保留にしてくれないか?」

「昨日の私と協力してマロンを倒すことについて?」

「そうだ。流石に今日の昨日で敵だと思っていたイルスを信用は出来ない。だからと言ってイルスの言葉が嘘だとも思えない。だから、それを確かめるために時間が欲しいという訳だ」

「そう……でも検討の余地があるだけで十分な前進よね」


 イルスはそう言うと、「朝ごはんは用意してあるから良かったら食べてから帰ってね」と言って再び目を閉じる。


 もう少し待てばイルスは深い眠りに入るだろう。そしたらマロンとの約束を果たすことが出来る。だけど、今の俺にはそれをする気にはなれない。

 大人しく俺はイルスが作った朝食を頂くと、荷物を持ってマロンが待っている街へと帰る。


 帰りは特に問題が起こることなく街に着くことが出来た。


「早くマロンの家に行かないとな」


 時間はまだ昼になったばかりだが、マロンとの話が長くなりそうなことを考えたら早めに戻った方がいい。それに、どっちの味方になるのかも考えないといけないしな。

 街に入ると、そのままマロンの家に戻ることにする。


「マロンいるかー?」


 マロンの家のドアをノックしながら呼んでみるが、返事はない。

 念のためドアを軽く捻ってみると鍵が開いているらしくドアは少しだけ開く。


「開いてるなら勝手に入るぞ」


 家の前で待っているのもいいが、鍵が開いてるなら家の中に居るはず。だったら知り合いだし家の中で待っていてもいいよな。自分にそう言い聞かせると家のドアを開ける。


 すると中からピチャピチャという音が聞こえてくる。そっと玄関から見える部屋の奥を除くと、そこには複数のアンデッドとアンデッドに吸血行為をしていて口元から血が溢れこぼれているマロンの姿が見えた。

 マロンの家に向かう途中、アンデッドが少ないのが気になったが、それはこういう事だったのか……。


 俺はダガーを構えると、マロンの後ろへ歩いていく。

 どうやらマロンは吸血行為に必死らしく、俺が家に入ったのに気づいてないように見える。


「マロン、俺のことが分かるなら右手をあげてくれ。わからないのならッ!そう来るよな!!」


 俺が声を掛けると、マロンは勢いよく振り返って血で作った長剣を薙ぎ払ってきた。


 俺はそれを背後に飛んで避けるとその勢いで家の外へと飛び出る。部屋の中で戦うのは余り慣れてないからな。

 それとマロンの家に居たアンデッドの数は3体。少なくとも3体以上のアンデッドがマロンの味方だと思った方がいいな。


 そうこうしていると無感情の目をしたマロンと3体のアンデッドが家の中から出てくる。


「アンデッドは殺してもいいよな?」


 元の身体なら兎も角、今の少女の身体で3体のアンデッド+吸血鬼を相手するとなるとギリギリで勝てるかどうかになる。

 そんな中、相手を生かすことを重要視してしまうと勝てる戦いも勝てなくなる。

 もしマロンの意識が戻ったら凄い責められるだろうが、俺は自分の命の危機が迫っていたから正当防衛をしただけだ。


 ダガーを構えると、痩せ細っている男性のアンデッドを狙って斬りかかる。

 痩せ細っている男性のアンデッドを狙った一撃は見事に決まり、ズシリという重い感触を味わいながら、アンデッドの肉体を斬り裂いていく。


「グヴァ!」


 痩せ細った男性のアンデッドは呻き声を上げると、ドサッという音と共に倒れる。

 俺は反撃が来る前にその場から離れると、マロンとアンデッドの様子を確認する。


「流石に一般人のアンデッドなら余裕で倒せるな」


 マロンはアンデッドが殺されたのに対してなんとも思ってないように見えるが、アンデッドは仲間が殺されたのと挑発されたのに怒っているように見える。

 もしかして感情があるのか?もし、アンデッドに感情があるなら戦いの選択肢が増えてやりやすくなるから助かるんだが……。


 そんなことを考えていると、残りの2体のアンデッドが突進してくる。俺は突進してきた2体のうちの一体をカウンターで倒すと、もう一体のアンデッドを蹴飛ばして距離をとる。


「アグァッ!」

「悪いなアンデッド語は知らないんだ」


 蹴飛ばされたアンデッドは俺の言葉に再び怒る。どうやらこのアンデッドは挑発に弱いみたいだな。さっき挑発してた時に真っ先に怒ったのもこのアンデッドだったし……。


「でも挑発に弱いのは戦場ではデメリットでしかないぞ」


 再び突進しようとしたアンデッドを斬り伏せながらそう言う。

 さて、マロンは何をしているんだ。

 仲間がやられているのにも関わらず手を出してこなかったマロンを見てみると、相変わらず無感情な目でこちらを見ていた。


「悪いが、次はマロンの番だからな」

「・・・・」

「だんまりかよ」


 俺はダガーを構えると、フェイントを織り交ぜなから斬りかかる。


「はぁぁあああ!!!」


 もらった!

 俺がそう確信したのとマロンが奇声を上げたのは、ほぼ同時のことだった。

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