第8話
翌朝。
目を覚ました俺は朝食を取ると、戦いに向けて荷物の最終チェックをしていく。
「ふう、一応足りない分のポーションは補充することは出来たか」
朝食を取っている時にマロンから貰ったポーション一式。それぞれの等級も上から3番目の3等級となっていて実用性も高い。と言うか最低でも4等級以上じゃないと戦場では使い物にならない。
5等級は多少の怪我であれば出番はあるかもしれないが、最低等級の6等級など軽い切り傷や擦り傷しか治せない家庭用のポーションだ。
そんなものを戦場に持っていたとしても何の役にも立たない。5、6等級を持つぐらいならその分他の物資を持った方がマシだと言われているからな。
「さて、準備も出来たし行くか」
荷物を背負い袋に入れるとそれを背負って下の階へと降りる。
下の階に降りると俺が降りてきたのに気づいたマロンが手元にあった紙を丸めて俺に差し出して来た。
「これがイルスの居る洞窟までの地図よ」
俺はそれを受け取ると一度地図を開く。地図に描かれていた場所は、この街から数十分もしない場所のアルダーヌダンジョンと呼ばれているダンジョンだった。
「それで、本当に一人で行くの?」
「ああ、マロンを連れていったらもしもの時の作戦が通用しない。それに、イルスを倒した時に街の住民に何が起きるか分からないから、マロンにはその監視と見届け人になってほしいんだ」
「……分かったわ。なら一つだけ約束して。必ず生きてイルスを倒すことを」
「ああ、約束する。必ず生きてイルスを倒してくる」
「行ってらしゃい」
その言葉を最後に家のドアを開けると街の外へと向かう。
道中、衛兵が一人アンデッド化して仲間を殺したという情報が手に入ったが、恐らくそれは俺を駐屯所に送った衛兵のことだろう。
どうやらあの後、普通にアンデッド化してしまい俺が殺した衛兵を殺したのでは?と疑われたらしい。俺としては侵入したことが有耶無耶になって正直助かったのだが、助けてもらったこともあり素直に喜べない。せめて彼の魂が成仏出来たことを祈るか。
「さて、街の外には出られたが……」
後ろを振り返ると街の入口である門が見える。正直、衛兵がアンデッド化した事もあり今日1日は入口で止められる可能性もあったんだが、素直に出れたのは良いことだ。
だが本番はここから。街の外ということは魔獣がそこらを彷徨いているということ。一応、武器も持っていて戦闘の予習こそ出来ているが、少女の身体になってからの今までの勝率は0。出会ったら終わりと考えて行動するのが一番だな。
背負い袋からフレイムの
●〇●〇●
ふう、結構歩いたな……。街を出てから数十分が経ち、そろそろアルダーヌダンジョンの入口である洞窟が見えてもいいはずだが、全く見えない。
「少女の身体になって足も遅くなったか……」
マロンから貰った地図を開いて近くにある目印となりそうなものと地図を照らし合わせると、ようやく洞窟から7割の所に着いたばかりの所だった。これからは予想の30%程の時間をプラスした方がいいな。
それと運良くここまでは魔獣と遭遇しなかったが、洞窟と森が近くなってきたこともあり流石に出るか。
腰に差したダガーを鞘から抜くと、遠くからやって来ている魔獣に向けて構える。
「ガルルァ!」
「くっ!」
ギィン!
木々の間から魔獣が飛び出してきたのも束の間、俺の存在に気づいていた魔獣が飛び掛かってくる。俺はそれをダガーでいなすと一度距離を取り、相手の正体を確認する。
不味いな……。まさか最初に出会った魔獣がウッドウルフとは……。
ウッドウルフ。体が木で出来た魔獣で高い防御力を誇る魔獣だが、何よりも恐ろしいのは体の植物が毒性を持っていた場合、攻撃を食らうとそこから毒が侵入するという点だ。
恐らく今回のウッドウルフは毒を持っていない個体だろうが、そ
れでも高い防御力を持っているためカウンターには気をつけないといけない。
ウッドウルフも俺が攻撃を受け流したのを見てなのかこちらの様子を伺っている。いや、カウンター狙いか。ウッドウルフは挑発するように唸り、明らかにこちらの攻撃を誘っている。
この状況に陥ったらカウンターを返せる力がない限り、ウッドウルフが痺れを切らすまで攻撃しないのが得策だ。
何時でも攻撃が来てもいいようにダガーを構えると、ジリジリとウッドウルフに近づいたり距離を取ったりして、ウッドウルフを挑発する。すると、ウッドウルフは攻撃をせずに煽ってくる行為に痺れを切らしたのか突進してきた。
「かかったな」
俺はその突進を少しだけ横に避けると、持っているダガーを背中から突き刺す。ウッドウルフは「グルヴァ!」と悲鳴を上げて距離を取ろうとするがそうはさせない。
ダガーを背中から抜くと、今度はお腹の横から刺してその刺さったダガーを先程背中に刺した傷に向けて切り上げる。
すると、先に背中に傷を作っていたこともあって胴体の四分の一を切ることに成功する。
「流石は魔獣。生命力が化物だな」
ウッドウルフは突進の途中だったのもあり、勢いよく前方へと倒れたが、近寄ってみるとまだ浅いが呼吸をしていて生きているのがわかる。
「恨むなら俺を殺そうとした自分を恨めよ」
再びダガーを構えると、ウッドウルフの命を終わらせるためにダガーを振り下ろす。「グギャッ!」という悲鳴と共にウッドウルフは絶命し、狼の体を保っていた木は形を崩してその場に落ちる。
「素材は要らないか」
ウッドウルフの素材は体の木がメインとなるのだが、今剥ぎ取ったところで嵩張るし邪魔でしかない。それに、今回のウッドウルフは決してレアな植物のウッドウルフじゃなかったし、正直素材は要らないだろう。
ウッドウルフの死体を放置すると、アルダーヌダンジョンに向かって再び歩みを進め始めた。
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