第7話

「ってことが俺の身に起きた出来事だ」


 話し終えてマロンの顔を見ると、マロンは驚いた顔をしていた。

 やっぱり感づいていたとはしても驚くよな。肉体を変化させる魔法ではなく、入れ替える魔法を使ったんだから。


 そして、若干怖い顔をしているのは俺が少女の身体を使っているからの可能性が高いな。

 最悪、罵倒されるのも仕方無い、か……。まあ、大の男が他人の少女の肉体を使い生活をしていると聞いたら誰もが険しい顔をするだろう。

 例え、本人が不可抗力なことだったとしても、一人の女性からからすれば嫌悪感が生まれるだろう。


 でも、マロンに嫌われるのは嫌だな……。この少女の身体になってから、唯一心から安心出来た存在。例えそれが少女の身体の影響だったからとしても、安心出来た事実に変わりはない。

 子供が親に叱られる時のように目を瞑ってマロンの言葉を待つ。

 だが、返ってきたのは予想外の言葉だった。


「ルーラも魔女に関わってたの!?」

「……え?」


 今、マロンは何て言った? ルーラもと言ったのか? ということはもしかしてマロンも魔女に……。


「あのね、ルーラ」

「ああ」

「貴方が北の魔女ルフィアに関わってるように私も魔女に関わっているの」


 やっぱり、聞き間違えじゃなかったのか。だが、俺とマロンが出会った魔女は別の魔女らしいな。だとすれば、マロンが出会ったのはどの魔女だ? 魔女は全員で4人しか居ないから残りの3人の誰かだと思うんだが……。

 東の魔女、西の魔女、南の魔女、北の魔女。

 それぞれ頭に東西南北と割り振られている魔女だが、それぞれがその地方に居るのではなく、4人の魔女の二つ名を付けるのが面倒くさくなった協会が適当に付けたと言う何とも悲しい事実。


 まあ、悪名の方の二つ名なんて飾りでしかないからな。二つ名はその人物を表す中でも重要な役割を持つが、悪名で付く二つ名など大抵が嫌がらせでしかない

 伝説の盗賊王に付けられた二つ名がこそ泥だしな。むしろ、東西南北で付けられたのは幸運だったのだろう。

 一人勝手に頷き満足をすると、北の魔女を除く3人の魔女からマロンに関わった魔女を考えようとするが、マロンはあっさりとその答えを言う。


「私が出会ったのは西の魔女と呼ばれる人物イルス=グローヴィア。この街の住民みんなをアンデッドに変えた犯人よ」


 西の魔女。イルス=グローヴィアに掛けられている懸賞金は1600万だったか? 確か、実力や懸賞金は北の魔女ルフィアよりは低いが、危険度で言えば上だったような気がするな。まあどちらにせよ、人をアンデッドに変える事が出来る以上は厄介なことに変わりないな。だが……。


「西の魔女と言えば10年程前に謎の失踪を遂げ、昨年に協会が正式に死亡したと公表していたはずだったが……」

「いいえ、彼女は生きている。アクルスタ協会は彼女が約10年間何も行動しなかったことをいいことに、西の魔女討伐隊に起きた惨劇を隠すために西の魔女を死んだことにしたのよ!!」


 マロンは最初は感情を抑えるように話していたが、最後の方は感情が表に出て、アクルスタ協会に怒りを感じているのが見て取れた。

 

「10年前に西の魔女イルスがこの街に来て街は変わった。彼女が来て1週間も経たないうちに街の上層部全員がアンデッドになったの。そして、街の上層部がアンデッドになった事に私たちが慌て始めた頃を見計らって魔女イルスが私たち住民の前に姿を現して、こう言ったわ「私はこの街を支配した魔女イルス=グローヴィアだ! 無力で弱き存在のお前らには一度チャンスを与えてやろうと思う。普段なら街の住民は全員アンデッドに変えるところだが、今回は1人だけ。そう、1人だけはアンデッドではなく、吸血鬼として生かしてやろう」ってね……」


 西の魔女の危険度が高い理由はアンデッドを作ることだけではなく、その性格からも来ていたのか……。そして、1人だけ吸血鬼として生き残れるということはマロンは。


「そして、私は生き残った。運が良かったと言えばそれでお終いだけどね。そして私は吸血鬼にされたんだけど、魔女イルスは生き残った特典として願いを一つだけ叶えてくれるって言ったの」

「だから、街の住民全員が自分たちがアンデッドと気付かずに普通に生活していたわけか」

「そう。流石にずっとは無理らしいからたまに消えたりするんだけど、それでも平穏な日々を送れるようにしてくれた。そして私を街の監視員役として置いて、魔女イルスはこの街から少し離れた洞窟に引き篭もったわ」


 急に消えた理由はそれが原因だったのか。街の住民が普通の住民に見えてたのも気になるが、それは多分街に結界的なのを貼っているんだろうな。だが、それよりも気になるのはマロンの気持ちだな。


「マロンはどうしたいんだ?」

「どうって?」

「このまま街が支配されているのを見過ごすのか? それとも、魔女イルスを倒して街を解放するのか?」

「見過ごすって……街のみんなは普通に暮らせているのよ? 支配なんてされてないようなものじゃない」

「いいや違う。住民がアンデッドな以上、街が支配されていることには変わりない。それにアンデッドということは簡単には死ねないってことだ。いや、自身がアンデッドと気づいてない以上は死ねるかもしれないが成仏は出来ない。まあ、あれだ。元々俺はこの街の住民では無いし、もう直ぐこの街を出る予定だ。マロンには感謝しているけど、俺は俺で先程も言った通り自分の身体を取り戻さなければならない。だから教えてくれ、マロンは最終的に街を、住民をどうしたいんだ?」


 マロンもそのことにはとっくに気づいていたはずだ。だけど、〝支配されてないようなもの〟って言ったってことは、現実を認めたくないんだろう。だけど、何時か現実を見なければならないものだ。どんなに逃げようと、隠れようとしても何時かは現実を見なければならない時期がやってくる。なら、俺に今出来ることはマロンのやりたい事を手助けすることぐらいだ。


「そんなの街を解放したいに決まってるじゃない! でも、西の魔女イルスは強い……。協会から派遣された討伐隊50人が手も足も出ずにやられたのよ、勝てないに決まってるじゃない……」

「決まりだな。街を解放するためにイルスを倒すぞ」


 俺がそう言うと、マロンは顔をばっと上げて俺に掴みかかる。


「話聞いてたの!? ルーラだって魔女と出会ったならその強さは身に染みて分かったでしょ!」

「身に染みて分かったが、俺はマロンに助けてもらった恩がある。それにこれでも俺は強いんだ。二度も魔女に負けるなんて恥は晒さない」

「でも……!」

「兎に角、明日イルスを倒して街を解放する。失敗したらマロンは俺の事は知らなかったと言えばいい。もし怪しまれたら俺を殺したらいいさ。それよりも今日は早く夜ご飯を食べて寝るぞ」


 ●〇●〇●


「まさかマロンも魔女に関わっていたとはな……」


 部屋のベッドにダイブすると、今日の出来事と明日の予定を振り返る。思えば濃厚な2日間だったが、この2日のお陰で身体の扱い方も分かってきた。流石に完勝とはいかないだろうが、いい勝負は出来るだろう。そうだな、明日西の魔女イルスを倒すついでに北の魔女ルフィアの場所も聞いてみるとするか。魔女同士なら何か知っているかもしれないからな。


「さて、と……明日は早いし今日はもう寝るとするか……」


 部屋の明かりを消すと、ベッドの掛け布団を被って目を閉じたのだった。

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