第6話

 駐屯所から出ると、街は最初見た時と同じように他の街と変わらない風景を映し出していた。ただ最初と違うところがあるとすれば、それは街の住人がアンデッドになっているということ。


「アンデッドの群れの中心を歩くのは流石に緊張するな」


 最初の方は小さな声で喋りながら、俺はアンデッドの群れの中心を通って街の中を歩いていた。

 最初は館に戻ることも考えたが、館で得られる情報は殆ど得られたのと、マロンのことも探さなければいけないから今はマロンの家へと向かっている。


 よし! あとはここを曲がればマロンの家に……って、マロン!?


 マロンの家に着くための最後の曲がり角を曲がると、そこには居なくなった筈のマロンが誰かを探すかのようにして立っていた。

 思わず足を止めてしまったが、直前まで走っていたことで鳴っていた足音でマロンはこちらを見る。


「あっ!ルーラどこ行ってたの!?」


 マロンは俺に気づくと怒りながらどこに行っていたのか聞いてくる。どうやらマロンの方では俺の方が何処かに行った感じになっているようだった。


「……本当にマロンなのか?」


 俺は動揺でマロンの質問を返す前に質問をする。

 動揺した理由はマロンがアンデッドになっていなかったからだ。

 普通だったら何言ってるんだとなるだろうが、マロンが服屋で急に居なくなった以上、俺はマロンがアンデッドか生前の記憶を持ったゴーストになっていると踏んでいた。

 なのに、今目の前にいるマロンはアンデッドでも無く、ゴーストの特徴でもある青い炎も見えない。このことから少なくともマロンは普通の人間ということになる。


 そしてマロンが普通の人間だとした場合、何故この街で暮らしているのかという疑問も生まれる。

 もしかしたらマロンも最初の俺と同様に街の住人がアンデッドになっている事に気づいてないのかもしれないが、それでも10年以上前からこの街に住んでいたら何かしら街の異変に気づいてもいいはずだ。


「私が私じゃなかったら誰だっていうの?」


 あわよくばマロンから見た街の情報も聞きたかったが、その俺の考えなどお構い無しに呆れた様子でマロンはそう答えると、「服は私が選んでおいたから着替えてきなさい」と言って俺を家に入れた。


 ●〇●〇●


「か、か、かっわいいー!」


 どうしてこうなった……。

 最初は用意された服に着替えただけだったのに、いつの間にかファッションショーになって、今や着せ替え人形。

 着ている服も最初は普通の町娘の服だったのが、ファッションショーに入ってからドレスなど高価なものに変わってきている。


「そろそろ脱いでいいか?」


 先程から変な動きをしているマロンにそう聞く。最初は、買ってくれたのはマロンだしいいかと思っていたが、5時間近くも続けば流石に疲れる。


「えっ、あっ、そうね!もう脱いでいいわよ」


 マロンはそう言うと、出した服を片付けていく。

 俺は今着ている青いドレスを脱ぐと、最初に着替えた町娘風のワンピースに着替え始める。

 それにしても、いくら何でもあの量は多くないか?

 着替えながら横目にマロンが片付けている服を見ると、床には20着以上の服が落ちていた。中にはまだ着てない服もあり、もしかしたらまだ付き合わされた未来があったことを考えると、自然と身体が震えたので急いで着替える。


「ありがとう。これはいいものを見せてもらったお礼よ」


 マロンはそう言うと俺の前に果汁ジュースを出してくる。

 一瞬、先日の件を思い出したが、これはファッションショーのお礼だと自分に言い聞かせるとコップを傾ける。

 うん、美味い。やっぱりこの果汁ジュースは美味しいな。

 流石に2回目ともあれば、あそこまではしゃぐことは無い。あの時は精神面の疲れと少女の身体になった影響でどうかしていただけだ。


 自分で自分を慰める行為に惨めだなと思いかけたが、そんなことは無い。あの時はまだ少女の身体にも慣れてなかったし、仕方が無かった事なんだ。そう!だからあの時の俺の反応は間違ってなどないし、今俺の手がお代わりを貰う手になっていたとしても、それは少女の身体が勝手にそうしただけで俺は全くもって関係ないのだ!!


「はいはい、少女の身体に慣れてなかったとかそうゆうの要らないから落ち着きなさい」

「……どこから声に出していた?」

「そうね、〝うん、美味い〟辺りからかしら」

「最初から!?」


 不覚だ……声に出ていたとは気が付かなかった。確かに、やけに心の声がリアルに聞こえるなとも思ったが、あれは普通に声が出ていたからだったのか。幸いなのは、マロンが俺の少女の身体になったという言葉に興味を示してないことか。今のうちにほかの話題を作って気を逸らす必要があるな。


「えっと、あれだな……今日はいい天気だな」

「もう夕方なんだけど」

「マロンは戦いとかに興味は」

「無い」

「そう言えば今日も泊まっていいのか?」

「泊まっていいわよ、ちなみに夜ご飯はシチューね」

「マジで!?」

「マジよ」


 これ、要らないことをしたんじゃないか?変に話題を逸らそうとしたせいで逆にマロンから疑いの目を掛けられてしまった。

 寧ろ、話題を逸らさなければ一生触れることもなかったかもしれないのに……。


「ねえルーラ」


 きた。この流れから言われることはだいたい想像できる。〝少女の身体になった〟ことについてに違いない。だとしたら俺はなんて答えるべきなのか。……いや、この際正直に話すというのもありなのか。


「なんだ?」


 少しでも違うことを聞かれることを祈って俺は返事を返す。


「さっきから話題を逸らそうとしていたけど、もしかしてさっき言っていた〝少女の身体になった〟とか関係している?」


 やっぱりか……。そりゃ流石に言葉に出してしまったら聞かれるよな。それに、俺の言動や行動を考えると既に男だということにも感づいているだろう。

 正直、マロンに今までの経緯を話すというのは悪くない考えだと思っている。ここ2日間で悪いやつじゃないのは分かったし、もしかしたら協力もしてくれるかもしれない。だが、一つ問題があるとすれば……。

 それは、マロンを魔女との戦いに巻き込んでしまうこと。例え、本格的に関わらなかったとしても、ルフィアがマロンに情報を話したことを知ったら容赦なくマロンを人質にしたり、殺すだろう。それだけは避けたい……。


 俺が話すかどうか悩んでいると、マロンが「話しづらいことなら無理して話さなくてもいいよ」と言って、会話を切り上げようとする。


「話す」


 それを聞いた俺は、気が付くとそう言っていた。

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