第5話

「うぅん……」


 体が痛い。どうやらいつの間にか寝ていたようだな。目の前に鉄格子が見えるが牢屋の中で俺は寝たのか?

 いや、現実を見よう。俺は負けたんだ……。

 庭にいた衛兵との戦いで最後に放った全力の一撃。威力こそ悪くはなかったが、武器の長さが足りなかった。

 もし、あの時俺が持っていた剣が刃渡り60cm以上のショートソードだったのなら、その刃は衛兵に届いて今頃は街に居ただろう。だが、あの時俺が持っていたのは刃渡り15cm程度のダガー。衛兵の首に届く前に弾かれてそのまま剣の腹で殴打され意識を失ってしまった。


「そう言えば結局俺を殺さなかったのか」


 殺されることも覚悟しといてくれと言った割には剣の腹で殴打された頭と最初に斬られた足以外には傷はない。その足に出来た傷も包帯が巻かれて治療してあるし、頭に出来た傷も小さなたんこぶと軽傷だった。


「さて、生きてたからにはさっさとここから出ないとな」


 このままここに居ても何も始まらないし誰がやって来るか分からない。先ほどの衛兵のように優しいやつが来るなら殺されはしないだろうが、それ以外なら殺される可能性だってある。

 それなら早めにここから出て、現在位置の確認や最初の目的である街へ向かった方がいい。


「それにしても本当に何も無いな」


 牢屋の中は薄い布1枚と用を足すための藁しか無く、牢屋の壁も鉄格子がある面以外はむき出しの石壁となっていた。


「実は藁の下が抜け穴ってことも……無いか」


 昔、知り合いの傭兵から聞いた話では牢屋の中にある藁の下には抜け穴があると聞いたことがあったのだがそれは嘘だったか。


 まあ、抜け穴がなくても武器があればよかったんだが、その武器を含む持ち物は気絶し後に取られたのか手元には無いし、武器の代わりになるものも見当たらない。

 万事休すか……。

 少し頭の中を整理するために鉄格子に背中を預ける。

 すると、キキィーと金属の音が響いて牢屋のドアが開いた。


「いや、開いてんのかい!!」


 少し期待した顔で藁の下を捲ったあの時間を返せ!

 思わず誰もいない空間にツッコンでしまったが、入口が開いているのなら話は早い。さっさとここから出るか。


 牢屋から出ると近くにあった階段を上って上に上がる。

 階段を上がるとそこは街の中にある駐屯所だった。


「俺の荷物があるな……」


 机の上には背負い袋とダガーが2本置かれていて、その横には一枚の紙が置いてあった。

 紙を取って見てみると、それはあの衛兵が俺に宛てて書いた手紙だった。



 ~~~~~~~~~

 名も知らぬ少女へ


 君がこの手紙を見ているということは牢屋から出たという所だろう。

 最初は君が何故館の中にいて俺の友人を殺したのかは分からなかったが、今は理解している。君の言った「死人の癖に生者に優しいんだな」という言葉で。

 あの意味を知ろうとした結果、俺はあることに気づいたよ。自分達がアンデッドになっている事に。

 君はきっと俺たちを見てアンデッドだと思ったんだろう? だから殺しにかかった。もし俺も君と同じ状況だったら同じ行動を取るから間違ってない行動なのだけれど、一つだけ聞いてほしいことがある。


 信じられないかもしれないが、俺達は自分たちが普通に生きている存在だと思っていたんだ。だから正常な状態でいられた。

 だけど、一度自分がアンデッドだと気づいたら、少しずつアンデッドの思考に支配されていってる気がする。

 だからこれはお願いになるのだが、館や街にいる人にはアンデッドになっている事を伝えないでほしい。もし伝えたら、他の人も思考がアンデッドに染まって最悪、街から大量のアンデッドが溢れるかもしれない。それだけは衛兵として避けたいんだ。

 それと、次に俺を見かけた時は殺してくれ。同じように自分がアンデッドとなったことで誰かを殺すようなことはしたくない。


 最後に、少しでも君の助けになることを祈って俺の持っている魔法紙スクロールを背負い袋に入れといた。数は少ないが使ってくれ。


 君を倒した衛兵より

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「なるほどな、自分がアンデッドだと気づいたら思考もアンデットに染まって行くのか。それなら確かに他の奴らには言わない方がいいな」


 手紙を読めないぐらいに破いてから近くにあったゴミ箱に捨てると、最後に書いてあった魔法紙スクロールを取るために背負い袋に手をかける。


「さてと、魔法紙スクロールは何の魔法なんだ?」


 背負い袋を開けて中から魔法紙スクロールを取り出す。魔法紙スクロールは全部で5枚入っていて、それぞれが違う内容の魔法だった。


「まずは〝フレイム〟か」


 フレイム。火属性基本攻撃魔法の一つで威力は高くないが、そこそこの範囲を燃やすことが出来る魔法でよく火の壁を作るのに使われる。


「〝ウォーターアロー〟に〝アイシクルレイン〟」


 ウォーターアローは水の矢を4本放つ事が出来る魔法で細かい操作も可能な魔法。アイシクルレインはその上位互換で氷の矢が20本空から降ってくふ魔法だが、こちらはウォーターアローとは違って細かい操作は不可能な魔法だったはずだ。


「そして、〝ロックウォール〟」


 自分を中心に直径3mの岩の壁を作る魔法だが、確かこの魔法は使うと中の空気が無くなるとかで使えない魔法だったはず……。

 まあこれは換金用として取っておくか。


「そして最後は……テレポートか!?」


 テレポートと言えば最上位魔法の一つで、テレポート先を設定することでその場所に移動、もしくはその場所から物を取り出すことが可能な魔法だ。最後に余りにもレアな魔法紙スクロールの登場で思わず息を呑んだが……。


「既にテレポート先が設定されている上にどこに繋がっているかわからない以上、簡単には使えないな」


 そう、既にテレポート先は設定されていたのだ。テレポート先は設定した本人しか知ることが出来ないので、俺に知るすべはない。

 そして、どこに繋がっているか分からないテレポートの魔法紙スクロールを使うほど俺も馬鹿ではない。知らない先のテレポートなど事故のもとでしかないからな。


「まあ、それでもマニアにはそこそこの値段で売れるか」


 魔法紙スクロールを背負い袋に仕舞うと背負い直してダガーを腰の剣帯に指す。

 そして何度か抜剣と納剣を繰り返し問題がないことを確認すると、駐屯所を後にした。

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