第4話
何だ……?
夜遅くに突然大きな音が聞こえて目が覚める。
目を擦りながらダガーを手に持つと音の方向を探ると、音は怪奇音というよりは生活音と言った様子で館の中と外の両方で鳴っているようだった。
「賊か?」
こんな時間にこの廃墟と化している街にやってくる団体なんてねぐらを探している賊の他にいない。
「しょうがない戦うか……」
このまま寝ていたらいつこっちに気づいて襲撃されるか分からない。それならこっちから襲撃した方が先制も取れるし人数も確認することが出来て一石二鳥だ。
「さてまずは人数把握だな」
ドアにそっと手をかけて外の様子を窺う。部屋の外は壁に立て掛けてある魔道具の光で明るくなっていた。
「賊は賊でも盗賊か?」
明かりの魔道具は安価で手に入る代物で賊や傭兵など拠点を持ってない人物でも所持していることはある。だが持ってたとしてもせいぜい2、3個。設置していくほどの数はないはずだ。
だが、今目の前にある明かりの魔道具の数は最低でも6個見える。この付近を縄張りとしている盗賊が隠していた明かりの魔道具をふんだんに使っている以外考えられない。
ダガーを構えながら更に前に進んでいく。すると曲がり角から明かりが見え男女の声が聞こえてきた。
近くにあった甲冑の裏に隠れると男女が通り過ぎるのを待つ。
「本日はこのあと17時からウルズーべ家の当主様と会談がございます」
「分かったわ、もう下がってちょうだい」
「失礼します」
アンデッド…なのか……?
甲冑の影から見える男女は執事と思わしき男と貴族らしき女だった。だがその姿は青白い肌に所々腐っていて死体だと言うことが分かる。
「あら?この甲冑こんなんだったかしら?」
不味いこっちに来る……ッ!
遠くへと進んでいた足は何時の間にかこちらの方へと進んできており、あと少しで俺が隠れている甲冑の前まで辿り着く。
息を完全に止めると見つからないことを祈る。いざと言う時のためダガーが直ぐに抜ける様にも構えておく。
「これでいいわ」
貴族らしき女は隣の甲冑の前で止まり頭の兜の位置を直すと、元の道へと戻る。
心の中で大きな溜息を吐くとダガーの柄に乗せていた手を降ろす。
体が小さくなかったら危なかったな……。
一瞬体を入れ替えた北の魔女に感謝しそうになるが、よく考えたら体を入れ替えられなければこんな目に遭うことも無かったと思い出し一人憤慨する。
……いや、それよりも今後のことだ。
こうなった原因が全部北の魔女にあることにイラついた心を落ち着かせると今後の対策を練る。
取り敢えず館からは出た方がいい。今回は運良く甲冑があって隠れられたが次も都合よく隠れられるものがあるとはとは限らないからな。同じ理由で庭もダメだ。
街に戻るのが一番だが……。
街は街で問題がある。それはここからでは街の様子が一切見えないことだ。もし街にもアンデッドが居たとしたらその数は館より多いだろうが隠れる場所も多い。
仕方ない、いざと言う時は倒せばいいだけだ。
ダガーを鞘から抜くとそれを構えながら館の外へと向かう。
道中数回アンデッドと出会ったがその度に隠れてやり過ごした。
倒さなかったことで移動に時間は掛かったが有益な情報も手に入れた。それは最初に会ったルージュという女のアンデッドがジャックス=デールナの妻だという事と自身がアンデッドだと気付いていないこと。
どうやらアンデッド達は自分たちがアンデッドになっていることに気づいていないらしい。となると同時期にアンデッドになった可能性が高い。
館の住人全員が同時期にアンデッドになったのも疑問に思うが今はこの館から出るとするか。
正面玄関は衛兵が居て出られなかったので調理室の裏口から出る。
調理室にはコックはいなくて簡単に外へ出られたが、街に出るにはここから庭を通らなければならない。
近くに生えてある花壇の中に身を潜めると花壇の中を通って正面入口へと向かう。
「誰も来ないのに警備なんかする必要あるのかよ」
「言いたい事は分かるがそれを口にはするのはよせ。消されても知らないぞ」
どうやらジャックス=デールナは街の住民だけでは無く、自身の配下にも信頼されてないらしい。
業務もサボり気味のようで正面玄関に居る二人の衛兵はボーッとただ突っ立ってるだけ。
もし自分の配下がこんな状態だったら絶望的だが、今の敵という状況ではただただ有難い。
ダガーを抜くと衛兵の背後に立ち、頭部目掛けて不意打ちをかける。
「何だッ!?」
腐っていても衛兵。気付かれることなく首を飛ばすことは失敗したが、驚いている隙に狙いを定めた方の首をダガーで切り飛ばす。
まず1人。
しかしイメージでは完全に捉えて綺麗に首を切り飛ばしたつもりだったダガーは首を綺麗に切り飛ばすことなく首の途中で止まってしまった。
そこで自分が少女になっているせいで力も下がっていることを再度思い出し、一旦距離を取るために首からダガーを抜こうとするが今度は中途半端に刺さったせいで抜くことが出来ない。
「クソッ!」
衛兵の肩を押さえて抜こうとするが抜けそうになく、一度ダガーは諦めて距離を取ることにする。
もしここが戦場だったら既に死んでたな……いや、ここも戦場か。
息を大きく吐いて呼吸を整えると相手の動きをよく観察する。
するとダガーを刺した方の衛兵が呻き横たわっていた。どうやら痛覚は残っているらしい。
攻めるなら今しかない。背負い袋から日常用のダガーを引き抜くともう片方の衛兵に斬りかかる。
「うおっ!」
ギィン!という激しい金属音が鳴り響くと同時に俺は後ろに飛ばされる。
「こ、子供!?」
やっぱりこの身体では力が弱いな。受身を取るのすら難しい。それに出来れば俺の正体が気づかれる前に倒したかったが……。
顔を上げると衛兵は動揺はしているものの、身体は俺を捕らえるために動いていてすぐ目の前には剣が迫っていた。
「くっ!」
受身を取りながら避ける暇はなく、無理して体を捻って避ける。
ヂッ!という音が背後から聞こえると足から激痛が走ってくる。着地した先で足を見ると僅かだが切られており血が流れていた。
これで隙を作らないと逃げることも不可能になったな……最初から戦わずに逃げるのが正解だったか。
数分前の自分を恨みたくなるが過去は変えられない。ダガーを構えると残っている方の衛兵に向ける。その際、最初に攻撃した衛兵を見たが既に息絶えておりピクリとも動いていなかった。
「悪いな嬢ちゃん。なにか理由があるのかもしれないが剣を抜いたからには殺されることも覚悟しといてくれ」
「死人の癖に生者に優しいんだな」
「何のことだ?」
やはり衛兵達は自分がアンデッドになっていることに気づいてない。今の煽りに対する反応もそうだが、最初に攻撃した衛兵がピクリとも動いてないがその証拠だ。
普通のアンデッドか自身がアンデッドだと気づいているのなら首にダガーが刺さったぐらいじゃ死なないことは知っている。なのに動いてないということは自分のことをまだ生きている人間と思っていて、首にダガーが刺さったから死んだと判断しているからだ。
まあ今の俺からすると自分たちがアンデッドと気づかれるよりかは人間だと思っていてくれた方が助かるがな。
衛兵は様子を見ているようでまだ動かない。
力が無い今の姿ならカウンターを狙うのが一番いいのだが、攻撃を待っている間にも足から血は抜けていく。このまま時間が経って攻撃される前に出血多量による敗北になることを考えるとこちらから仕掛けるのが手っ取り早くていいか。
ダガーを持った手を縦に構えると兜と鎧の隙間を狙って突進する。
「はあっ!」
出来るだけ歩数は少なく、でも力強い一撃を繰り出す。
一点集中の兜と鎧の隙間である首を狙った一撃。見え見えで受け流すことも容易い攻撃だが小細工が出来ない今の状況からしたら最大にして最強の攻撃。
半分は今までの自分を信じて、もう半分は戦いの神に祈りながら俺はタガーを前に突き出した。
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