第3話

「は?」


 外に出たら先程まで活気づいていた街がただの廃墟と化したことに思わず自分の目を疑う。

 誰かいないのか!?と叫んでみたが、代わりに返ってきたのは虚しい風の音だった。


「くそ……ふざけんなよ!」


 目が覚めたら少女になっていたと思ったら今度は街が廃墟になるのは幾らなんでも理解の範疇を超えている。

 ガシガシと頭を掻いて今後の対策を練ろうとするがいい案が全く出てこない。


「町長の館に行けば何かわかるか?」


 マロンのことを探すならマロンの家に行くのが最適解だが、今の状況を見るにマロンを探すよりは街の状態を探る方がいいような気がする。

 町長の館なら街の情報は入るだろうしそれに関する資料も残っている可能性が高い。

 そうと決まれば直ぐに町長の館に向かった方がいいな。

 町長の館に向かう前に後ろを振り返ると、やはり服屋も先程入った時とは違い雨風によってボロボロになっていた。


 ●〇●〇●


「ここが町長の館か……」


 目の前に建っている町長の館は街に建っている建物と同じで廃墟と化している。

 木枠で出来た窓は割れて至るところから植物が生えており、まるで自然にできた迷宮のようになっていた。


 武器が無い今の状態では入りたくない場所だな……。


 しかし武器がないからと言ってこのまま入らないわけにも行かない。敵が居ないことを祈りつつドアノブに手をかけると腐っていたのかドアノブは簡単に取れてしまった。


「…………俺は悪くない」


 自分で自分を庇いつつ取れたドアノブを足元に捨てると、今度はドア本体に手を掛ける。腐っていたのはドアノブだけではなかったらしく小さな少女の体でも簡単に押し開けることが出来た。


「ゴホ!ゲッホゲホ……ッ!」


 外と同じように館の中も長い間放置されていたらしく、ドアが押し開けられると同時に大量の埃が宙に舞う。

 あまりの埃の多さに顔を顰めると服で鼻を覆い館の中に入る。


「埃が凄いな……」


 玄関においてある靴入れに指を這わせると大きな埃の塊が指に付

 く。

 それを見てまた顔を顰めたくなるが、目的はこの館の清掃ではなく街に関する情報を探すこと。極力埃を飛ばさないように気をつ

 けると、町長の部屋があるであろう館の奥へと進んでいく。


 道中なんの生物も居なかったことに違和感を感じたりもしたが、町長の部屋間では無事に辿り着くことが出来た。

 部屋のドアノブを握ると腐ってないかを確認してからゆっくりと捻る。どうやら今度は腐ってなかったらしく、キキーッという音と共にドアを開けることが出来た。


「ここが町長の部屋か」


 部屋は机と椅子に本棚と質素な作りになっている。机には書きかけの書類が散らばってあり、その書類を手に取り見ていくとある書類が目に入った。


「多数の怪死報告?」


 その書類は冊子で出来ており表紙には至急確認の文字と多数の怪死事件報告という文字が書いてあった。書類を捲っていくと発見された死体の死因がどれも失血死ということと、被害者は全員ノーマンであると書いてある。更に捲っていくと

 被害者の数は街近辺で10件、街で3件と計13件を越えているのが分かった。

 そして最後のページまで辿り着くと書類が提出された日付と町長であるジャックス=デールナのサインが入っていた。


「ノーマン主義であるジャックスからしたら悩ましい問題なのだろうが……」


 ノーマン主義であるジャックスからしたら被害者全員がノーマンであるこの事件はすぐに解決すべき問題だろう。だが対策事項に書いてあるのは衛兵増員の一言。


 対策らしい対策もせず、ただ人員を増やせば解決すると思っているのか?


 本当にそう思っているのならこの街が廃墟と化したのも分かるのだが、町長とは街が入っている領地の領主が任命するもの。

 人を見極める目が肥えている領主が人選を失敗するとは思えない。任命した後に落ちぶれた可能性もなくはないが今はそこまで考える必要は無いだろう。

 残りの書類も目を通していくがこれといった情報はなく、闘技場建設の情報だったりノーマン主義反対の署名が入った書類だけ。


「有益な情報は怪死報告だけか……」


 多数の怪死報告の書類を手に取るとそれを持って館の武器庫へと向かう。道中、使用人の部屋から背負い袋を取ると書類を中に入れてそれを背負う。武器庫の場所は1階の隠し部屋にあり、探すのに多少の時間は手間取ったが見つけることが出来た。


「ここが町長館の武器庫か……」


 地下は広さ25㎡とかなりの広さがあり、棚に立て掛ける形で100は超えている沢山の武器が置いてあった。

 その中でショートソードが置いてある棚に行くと、使い慣れていたサイズのショートソードを探す。ショートソードは全部で14本置いてあり、元の持っていたサイズと合うショートソードは2本あった。

 2本の中のうち気に入った方である黒い鞘に入ったショートソードを手に取る。そして鞘から抜いて試しに一度縦に振ってみる。

 するとガッ!という音とともに剣が地面に突き刺さる。


「思ったより重いな……」


 ショートソードは地面に突き刺したまま、赤くなって手を見て俺はそう零した。

 普通に考えれば身体が小さくなっている分筋力も下がるから当たり前なのだがここまで重いとは思わなかった。せいぜい、慣れるまで厳しいぐらいだろうと楽観視していた。


「これは不味いな……」


 武器庫に来たのは武器を得るため。だがその肝心の武器が扱えないとなると武器庫に来た意味がない。

 取り敢えずで持っていく選択もあるが、扱えない武器などただの重りでしかない。

 武器を諦めるかどうか悩んでいると、ふと隣の棚に掛けてあるダガーが目に入った。


 ダガーの棚に行くと一番大きいサイズの刃渡り約30cmのダガーを取って試しに振ってみる。

 すると、多少の重さは感じるが特に問題なく振ることが出来た。


 これなら……。


 重さの感覚も前に使っていた剣とさほど変わりなく手に馴染む。

 ショートソードの代わりに携帯するのはこれにしようと決めると、ダガーを鞘にしまい倉庫の入口で取った剣帯に差す。


「ついでに日常用に使えるダガーも必要か」


 今度は一番小さな15cm前後のダガーを取り背負い袋に入れると、今度こそ倉庫を後にする。

 そのまま今日は館を出てマロンの家で一泊しようとするが、館の外に出てみると既に外は暗くなっており出歩くのは危険な状態だった。


「今日は館で一泊だな」


 自分に言い聞かせるように言うと回れ右をして館の中へと戻っていく。部屋は寝れるなら何処でも構わないので一番近くにあった仮眠室へと入ると、布団の埃を祓ってさっさと横になったのだった。

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