第2話
今俺達は街の中を歩いている。俺は顔を下に向けて歩いていてマロンの顔は見えないが、マロンが俺の顔を見ているのは何となくわかる。お願いだから何も言わずに黙ってろと心の中でマロンに言っていると今一番言われたくないことを言われた。
「顔真っ赤になっているわよ」
「うるさい!」
マロンに顔が赤いことを指摘された俺は更に頬を赤く染めて足を速める。
俺の顔が赤い理由は、あの後果汁ジュースを何で薄めたかを聞いたら普通に水で薄めていたと言われたからだ。
一般的な果汁ジュースと比べて割合は変えてるらしいが、それでも自信満々に水ではないだろうと聞いた俺は恥ずかしさのあまり顔が真っ赤になった。
いっそのこと部屋で放置して欲しかったが、どうやらマロンには用事があるらしく、他人である俺を家に一人で残して行くわけにはいかないから俺もマロンの用事に着いていくため家から出ることになったというわけだ。
ちなみに用事とは何かと聞いているのだが、聞く度にもうすぐ分かるわよと言ってはぐらかされて会話から情報を得ることは出来てない。
だが会話以外からなら多少の情報は得られた。例えばこの街の人たちは純血なノーマンしか居ないということと、この街の町長はジャックス=デールナということ。
些細な情報ではあるが、些細な情報でも考察することはできる。
例えば街に純血なノーマンしかいないという情報は、この街の上流階級の中に居る純血なノーマン以外を嫌っている誰かが圧力を掛けている可能性がある。
町長に関しては調べれば直ぐに分かる情報だが、町長の性格や普段の行いでどんな人物かも分かる。
その結果ジャックス=デールナはノーマン主義だと言う事が分かった。街に純血なノーマン以外を入れないのは町長本人が圧力を掛けているという訳だ。
更には気が強く絶対に自分の意思を曲げない厄介な町長だとみんな悩んでいるらしい。
俺は傭兵として数々の街を巡ってきたが、大抵こういう輩の最後は市民の反乱で殺害されたり、街が機能しなくなって衰退した結果領主に裁かれたりしてろくな死に方をしない。
恐らくこの街の町長も同じ道を辿るのだろう。
そんな事を考えながら歩いていると、すぐ隣を歩いていたマロンが1件の建物の前で止まった。
俺もマロンの隣で止まると、マロンの目の前にある建物を見上げる。するとそこには服のマークが描かれた看板がぶら下げられていた。
「マロンの用事は服を買うことなのか?」
「そうよ、正確には私のじゃなくて貴女のだけど」
マロンはそう言うと店の中に入ってしまったので俺も追いかけて中に入る。
店内に入ると目に入ったのはたくさんの女性服。上から下まで全ての女性服が店内に置かれており種類も沢山あった。だが逆に男物の服は一つも置いていてなく、ここが女性専門店の服屋ということを表していた。
「俺はお金を持ってないんだが……それにここは女性服ばっかりだから落ち着かない」
「助けたのだから最後まで面倒みるのが道理よ。それよりも俺って言わない」
マロンは沢山ある服の中から俺に合うサイズの服を吟味しながら返事を返してくれたが、その返事はどこか上の空と言ったところで俺の服を真剣に選んでくれているらしい。
流石にこの服での説得は無理か……。
自分の服を見下ろしてみると、あまり品質のよくない無地の服に所々穴が空いている。
服に無頓着な俺でも流石に新品に変える程今着ている服は汚れている。俺はそろそろ替え時だなとしか思わないが、これが女ともなれば今の俺の状況は耐え難いものかもしれない。
ふとマロンの選んでいる服を見てみる。するとマロンが選んでいた服は小さな子が喜びような花やハートの柄がついていた。
不味い……。マロンが選んでいる服は一般的な女の子にとって喜ばれるものかもしれない。確かに俺も肉体は女の子ではあるが、精神は大人の男なのでこれを着るとなると耐え難い羞恥心がある。
ここは万が一地雷を持ってきた時のために俺も選んでおくのがいいだろう。
女物の服はよく分からないが着れそうな物でそれっぽい服を選んどけばいいだろう。そう思い、着れそうで気になった無地の服を手に取っていく。中には取ってみると柄がついていた物もあったがそれは丁寧に戻しておく。
最終的に残ったのは3着と少なかったが0では無かったことに満足していると、後ろから店員らしき人物が話しかけてきた。
「お嬢ちゃん商品を手に取るのは構わないのだけどそれ買えるのかい?」
店員は俺がお金を払えないのでは?と心配してるようだ。確かに俺はお金を持ってないが今回はマロンが買ってくれるのでお金の心配は要らない。まあ俺が選んだのは駄目というかもしれないが……。
そう伝えようとすると店内にマロンが居ないことに気づいた。
何処に行ったんだ? 店内全体を見渡しても見つからないので店員にマロンのことを聞いてみることにする。
「先程まで店にマロンっていう女は居なかったか? 茶髪で髪をポニーテールで結んでいる女なんだが」
「さてねぇ、あたしには最初からお嬢ちゃん一人だったような気がしたけど……」
もしかしたら忘れ物をして取りに戻ったのかもしれない。出来れば一言掛けてほしかったが慌ててたのかもしれないな。そう自分に言い聞かせると店員に商品を戻しておくことを伝える。
「そう、商品を見るのはいいけど次はちゃんとお金溜まってから買いに来てね」
店員はそう言うと店の奥へと消えていった。
俺は商品を戻すと最後にもう一度店内を確認してマロンが居ないのを確認する。
助けたなら最後まで面倒を見るのが道理と言っていたから流石にここで放置することはないだろう。もし放置されたとしたらその時はまた傭兵として働けばいい。
そう心に言い聞かせると一旦マロンの家に戻るために店の扉を開ける。
すると目の前に広がっていたのは、先程まで人が沢山いて活気づいていた街ではなく……誰一人として居ない、静寂とした雰囲気に包まれた街だった。
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