宣言する女王
「
エリザが傍らに座るアリスへとそう伝えた。
彼女達は巨大な椅子がある部屋……つまるところ玉座に座っていた。
部屋は大きく黒と金を基調とした装飾で飾られている。奥には五段の階段があり、その上にある玉座は黒の大理石でできていた。背後の垂れ幕に描かれているのは国旗である黒い龍と亀の甲羅だった。
「そう。じゃあこっちも始めよっか」
アリスの眼下にはカメラがあった。テレビ局が用いるような巨大なカメラだ。操作はアリを巨大にしたような姿の魔族が行っている。
◆
『こんにちは。人類の皆さん。私は貴方達の言う魔族の代表……エリフィシア王国代十四代国王、アリス=キングです』
テレビに映し出されたのは少女だった。
それを見て、男達は頭を抱えた。
男達は皆一様にスーツ姿、菊文様の記章。日本国会議員だ。しかし大半が三十代前半で構成されており、五十や六十を過ぎたような者は少数派である。
「まさか、魔族がそんな事を」
「どうなってる、あいつらは対話不可能じゃなかったのか」
「何もかもが大嘘だったって事か?」
「まあまあ、まずはやっこさんらの声明を聞こうじゃないか」
上座の近くに座る男がそう言うと皆が黙る。その男は五十過ぎほどであり、やつれた顔をしていた。表情は笑っているものの、それが作ったものだと解ってしまうような目つきをしていた。
『始めに宣言致します。私達は世界征服や人類滅亡を望んでいるわけではありません。私達は、私達が安全に生きられる場所を求めている。それだけです』
画面には彼女一人が大きく写っていた。
『皆さんの知る魔族とは、知性が低いか、凶悪であるか、ともあれ何かしら人間に不利益な存在だと伝えられていることでしょう。しかし、皆さんは私を見てどう思いますか?どうお考えでしょうか?対話不可能な存在だと思いますか?』
「……そうでなくては困る」
『十四年前、私達はこの世界に呼び寄せられました。世界を超える召喚術を使って、この世界に呼び出されました。不本意に、不用意にこの世界に連れてこられたのです。私達は戦う気なんてありませんでした』
しかし、
『戦争が始まりました。私達は生きるために戦いました。戦争に破れ、私達はそれからずっと弾圧され影に隠れてひっそりと生きるしかありませんでした』
故に、
『私達の声明はこうです。私達は国を設立します。私達が安全に暮らせる場所を作ります。ですので、まずは何処か土地をいただきたいと考えています。その為に……戦争をすることは吝かではありません』
部屋の男達はすでにソワソワし始めていた。
「なんとかならんのか」「放送を止められないのか」「早く関係各所に連絡を」「電力供給を止めれば良いだろう」「とっくにやってる?じゃあなんで止まらないんだ」
『それでは、良い対談を期待しています。私達は宮殿で待っています』
映像が切れた。画面は真っ黒になり、『信号が途切れています』の文字だけが写っている。
「小林首相!どうするんですか!」
一人の議員が立ち上がり、憤慨したようにそう言った。若い男の、いかにも利発そうな顔立ちの議員だ。
「アレは僕達の知る魔族じゃない。普通の人間のようだった。それを相手に、戦うって言うんですか」
上座に座る厳格そうな五十すぎの男が口を開く。
「今までだって同じ人間相手に戦争なんて当たり前のようにしていただろ」
「害意があるからそうしたまでであって、そうでないというのなら我々は対話の道を探すべきです」
「違うな。根本的に間違っている。アレらが求めているのは領土だ。ということはその土地の利益もすべて持ってくってことだぞ。誰も何処も土地なんて提供するはずがない。だから、戦争しかない」
「彼等は不当に虐げられていたのではありませんか!」
「そもそも、現れた時点で数億人殺してるんだぞ。存在自体が許されるものじゃない」
「だとしても!」
「まあ落ち着けって青山君」
上座近くに座る男の方が口を挟んだ。
「確かに、若い世代の人間は誰も魔族大戦の真実を知らんし我々も伝えるつもりは無かった。魔族が動くなんて到底思っていなかったからな」
「だったら、教えて下さい。どうするつもりなんですか。吉長前総理。魔族大戦時は貴方が総理だったはずです」
「どうするって何も、もうアメリカが艦隊を動かしてる。戦争しかないのさ」
「そんな……」
青山と呼ばれた青年はがっくりと席に座った。面を下げ、うなだれる。
「アメリカの魔導艦隊……これで決着がつけばいいんだがな」
そういって吉長はタバコを咥えた。
◆
太平洋上空。
魔族を乗せた魔王城――エリフィシア宮殿は悠々として海上を進んでいた。
その前方、数キロメートル離れた先の空間がまるで穴が空いたように揺らいだ。
玉座の間の中央には巨大なモニターのように映像を写すガラス板が浮いていた。アリス達五人はそれで海上を見ていた。
「やはり来やがった」
赤いドレスの女性が荒くそう言う。
「レベッカ。抑えて」
エリザがそれを嗜める。
「けどよ」
雷電が空間を走り、円を描く。その中から空間を割いて姿を表したのは巨大な砲塔を四門備えた戦艦だった。
「ワールドガード級超弩級戦艦……」
春花がそうこぼす。
「テレビで見たことある……確か、魔王城の強力な魔力障壁を破ったのはこれの主砲だって」
戦艦は二十隻が並んでいた。どれもが砲塔を宮殿へと向けている。
巨大な砲塔もさることながら、目立つのは艦橋前に置かれた箱のような代物……障壁強制共振共鳴拡大装置だ。
「……本当に怖いのはこの戦艦ではないんですけどね」
戦艦から何かが飛び立った。
小さくてわかりづらいが、人のようだった。
「どういう……?」
「すぐにわかりますよ」
エリザはまるで悲しい事を語るかのような顔でそう言った。
アリスと春花は疑問符を浮かべた。
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