02

 今、何が起こっているのか。思考力がまだ発達しきっていない春には分からなかった。

 自分が閉じ込められているその『箱』の中には、自分以外に二人のヒトが居た。だけど彼らは、を見ることなんてなかったのに。

『外』から帰って来た二人が、突然春の居る部屋へと入ってきたのだ。そして、聞いたこともないような激しい声で何かを言われたあと、床に乱暴に押し倒された。女は強い力で春の首を締め上げ、男はその手に包丁を握っている。

 何が起こっているのか、春には分からなかった。

「春ちゃん!」

「!?」

 扉の音を大きく響かせて家の中に入ってきた「侵入者」に、男女は驚いたように振り返った。その姿を確認すると、少年。

「っは……春ちゃんを、はなせ……!」

 その少年・仁はそう言って、震える手を胸の前で握り締めていて。

 だって、怖い。二人は、彼女の親である筈なのに。その二人が、一人娘を殺そうとしている。首を絞めて、刃物を持って。家族なのに、どうして。

 母は、ただ優しい人だ。父は、忙しくてあまり会えないが家では穏やかに笑ってくれる。そんな両親のもとで育った仁には、この状況はあまりに衝撃的なものだった。

「い……いらないなら、ちょうだい……?」

「は?」

「その子、おれにちょうだい」

 一歩、一歩。二人が動かないのを確認しながら歩み寄る。彼女の恐怖を思うなら、彼女を守れるなら、自分の感じている恐怖なんて些細なことだった。

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