小学生

幼馴染みの少女

01

 家は隣同士。その幼馴染みの少女は、一つ歳下だった。一般的に「可愛い」と言える顔立ち、華奢な体つきも白い肌も、彼女の愛らしさを際立たせる。

 名を保井やすいはるといった。

「じんく~ん」

「春ちゃん、こっちこっち」

 小学生の二人はまだ背格好もそう変わらない。行く先行く先を追ってくる可愛い妹分の手を取り、仁はあちこち一緒に遊びに行ってやるのだ。

 数年前、隣の家の窓――カーテンの僅かな隙間から、外を覗くようにして見る人影があった。それが春だ。彼女は両親によって軟禁され、ネグレクトを受けていた。当初の彼女は骨と皮ばかりで、弱りきったその足ではまともに立ち上がることも出来なかった。

 はじめはこっそり食べ物を与え、立つことが出来るようになれば歩き方を教え、外へと連れ出すようになった。彼女の両親は、何度か見かけた様子を見ればまるで「子供など居ない」というような振る舞いをしていて。会いに行くたびに健康的になっていく彼女の様子から見ても、本当に子供の存在など忘れているかのようだった。

 保井の姓はその家の表札から、春の名は、外で偶然会った彼女の親戚から聞いて知った。

 言葉も知らなかった。教えたのは勿論、仁。身体だけ先に成長してしまった赤ん坊を育てるような感覚。むしろよくこの歳まで生きていたものだ。

 ただ、知って欲しかった。世界は明るいのだと。楽しいことが溢れているのだと。そして、笑って欲しかった。まだ子供に過ぎない仁が彼女に手を伸ばしたのは、ただそれだけの理由からだった。

 勿論、仁一人で出来ることなんて限られている。事情を知った仁の母も、彼女の両親に気づかれないようにとひっそり協力していた。児童相談所にも警察にも訴えたが、それは彼女の両親によって追い返されてしまった。


 楽しかった。堂々と遊べなくても、春が笑ってくれるのが嬉しかった。仁と関わることでどんどん健康的になって、どんどん可愛くなる春から目を離せなかった。

 そうして、仁が十歳になった歳の秋のことだった。

 授業中にも関わらず、胸にぞわりと気味の悪さを感じ、仁は教室を飛び出した。ランドセルも持たず、一目散に自宅の方へ向かう。玄関前を通り過ぎ、隣の家に入り込んだ。

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