神域の天才

01

 一年生一学期の学期末試験、その最終日。唐突に機会は訪れた。

 試験途中で気分不良になったクラスメイトを、まだテスト用紙と奮闘している保健委員の代わりに、早々に終わらせていた仁が保健室へと連れていくことになった。小柄な少女の片腕を肩に担ぎ彼女の歩幅に合わせてゆっくりと歩くと、保健室までは十分ほどだ。

「失礼しまーす」

 一声かけて入室すると、中にはいつもの保健医と、それから見覚えの無い男子生徒が一人。机に向かって何かを書いているところを見るに、ここで試験を受けているのだろうか。

「次ください」

 記入を終えたらしい紙を保健医に渡せば、彼女は受け取って別の紙を少年に差し出す。

 連れて来たクラスメイトをベッドに寝かせ、仁は保健医に歩み寄った。

「誰すか?」

「片桐君よ。さっきからすごいスピードで解答用紙を取っかえ引っ変え」

「あいつが……」

 片桐、という名に仁は少年をじっと見る。確かに、解答用紙に滑らせる手が止まる様子はない。

 今回の試験内容も、仁にしてみても確かに難しいものはなかった。それにしても早い。問題を見た瞬間に答えが出ているかのようだ。

 渡された体温計を女生徒のところへ持って行くと、彼女は眠ってしまっていた。これは困った。いくら看病のためとはいえ、女子の服の中まで手を入れるわけにはいかない。

 どうしようかと少し悩んで、以前関わった事件の時のことを思い出した。ほんの数分で解決した強盗事件。その時、熱を出していた被害店の店員に、偶然居合わせた看護師がどうしていたか。高熱と恐怖で意識を手放した店員は冷や汗がひどく、脇では測りにくそうだと呟いた看護師。

「こう……だったか」

 少し女生徒の首を傾け、それによって生まれた皮膚の重なり合う部分、その間に体温計を挟み込んだ。事件の時は汗を拭ってからしていたが、彼女は気になるほど汗をかいている様子はない。これで充分だろうと素人目に判断するが、保健医が何も言わないところを見ると間違ってはいないのだろう。

 やがて体温計が測定終了を示す音を鳴らし、抜き取った体温計を保健医に渡しては教室での女生徒の様子を伝える。

 そうしているうちに、カサリと紙の音が聴こえて二人は振り返った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る