04
ついに残るは仁一人となったその夜、上の階からバタバタという音がしばらく聴こえ、その後また夜の静寂が戻った。
孤独の寂しさから人恋しさを覚え、それまで出ようとなんてしなかった部屋の扉に手をかける。背伸びをしても届かないドアノブは壊れかけていたのか玩具を投げると容易に動き、壁との間に僅かな隙間を作った。
子供の力では重い扉を何とか開いて廊下に出る。右と、左に進むことができるその長い廊下は、記憶では左に行けば上階へ行ける筈だ。
だけど右の方向にある部屋から、薄ぼんやりと明かりがもれているのを見付けてしまった。これを、好奇心旺盛な仁が黙って見過ごすわけがない。
新しい部屋。今までには見たことの無い玩具が置いてあるかも知れない。
ぺたぺたと裸足で歩く音が反響し、開きっぱなしだった扉の前まで着いた瞬間、廊下に激しい音が響いてはぱっと明かりがついた。突然の光に目が慣れず、仁は思わずぎゅっと目を閉じる。
「見付けた……!」
耳慣れない声にゆっくりと目を開けると、大柄な男性が駆け寄ってくるところだった。
「無事か? お前、一人なのか? 他の子供たちは……!?」
仁の前で膝をつき大きな手で両肩を掴んで、男性は矢継ぎ早に問う。
「……おじさん、だぁれ?」
「おじっ……!?」
ここへ来て初めて、大人に向けて発した言葉。大人からの言葉は、まだ仁には理解出来なかった。
今は男性の身体に隠れてしまったが、彼がこちらへ向かってくる時にその向こうに見えたのは、この地下への階段と廊下を隔てている筈の扉ではなく、数人の男性たちがその階段を降りて来ているところだった。
小首を傾げて男性を見上げていると、彼も先程から開きっぱなしだった扉に気付いたのか、そのままの体勢で部屋の中へと顔を向けて──瞬間、表情を強ばらせた。
「片桐刑事」
「午後八時三十八分……少年を一人保護。残りの行方不明者は……」
同じように部屋を見ようとした仁の視界を遮るようにぎゅっと大きな胸に抱き寄せ、後から来た男性とのやり取りを少しして、片桐と呼ばれた男性は仁を抱き上げた。
「名前は?」
上階への階段へ向かいながら、片桐が短く問う。
「なりみやじん」
「ジンか。怖くなかったか?」
「たのしかった」
「楽しかった? 何が?」
「おともだち、いっぱい」
「……そうか」
問いの一つ一つに仁が答えていくと、片桐の表情が徐々に歪んでくる。痛みに耐えるようなそれは、だが口元だけは歪な笑みを形作っていた。
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