03
その日、夜になっても仁が家に帰ることはなかった。当然と言えば当然だろう。誘拐してきた子供をわざわざその日のうちに家に返す誘拐犯が何処に居るというのか。
はじめは「おともだち」との泊まりも新鮮で、ただ楽しく遊んでいただけだった仁も、やがて帰りたいとぐずるようになった。他の子供たちも同様に、家が恋しいと泣く。
それから子供の数が増えることはなかったこともあってか、部屋の広さに寂しさすら覚えた。
二日後、初めの三人とは違う男が一人部屋を訪れ、子供たちのうちの一人を「おうちへ帰ろう」と言って連れて行った。
帰れるんだ。
子供たちの目に希望が宿る。
きっと順番なんだ。順番に来たから順番に帰るんだ。
どの子だろうか、そう言えば、他の子供たちも安心してまた遊び始めた。
一人、また一人。一日に一人ずつ部屋から去っていく子供たちを見送って、仁は自分の番が来るのを待っていた。
「外」ではこれが大事件になっているなどとは、露ほども思わずに。
まず事件の概要として、少年少女の行方不明が連続していた。居なくなっていたのは五歳以下の幼い子供たちばかり。仁の母がそれを知ったのは、彼が居なくなったその日だった。
地域ではちょっとした有名バンドの一員である夫と幼い息子のこと、ママ友との関わりに毎日が必死な彼女は、世間を騒がせているニュースにひどく鈍感だった。一日に数人ずつの行方不明で期間が短かったこともあり、ママ友の会話に上がるのも遅れ、彼女の耳に入るのに時間がかかってしまったのだ。
半月近く経った今も、勿論のこと一人として戻ってきた子供は居ない。
最悪の事態が脳裏を過ぎり、家事も出来ず、夫──仁の父もまた、仕事を休んで息子を捜しまわっていた。
──『GOESドラマー・タカシの息子 行方不明』
新聞の一面にそう書かれた大きな見出しの下には『近隣地区で行方不明の子供 合計16人』と小見出しもある。
十六人。ほんの数日の間に、仁を含めそれだけの子供たちが親元から姿を消したのだ。
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