第42話 デパートとまさかの遭遇

 相変わらずの注目を浴びながら、桔梗達は街を歩く。


 勿論、シアの狼耳やラティアナの羽の様な地球上では有り得ない身体的特徴に関しては、魔法で隠している。

 加えてスマホ等で撮影され、拡散されるのを防ぐ為に、桔梗達が少しでも映っていると写真に残す事ができない様、魔法で妨害もしている。


 しかし、それでも彼女らの髪色やそもそもの纏う雰囲気、そして何よりも彼女達の暴力的なまでの美しさが周囲の視線を集めてやまない。


 と、そんないつも通り多くの視線に晒されつつも、やはり以前同様全く気にした素振りを見せる事無く、楽しげに街を眺め歩く少女達。

 桔梗もその楽しげな姿を微笑ましく思いながら、仲良く歩く事十数分。


 遂に誰にも絡まれる事無く、デパートへと辿り着く事が出来た。


 桔梗達は早速デパートへと入る。


 デパートの中はあいも変わらず多くの若者で賑わっていた。

 友人と歩く者、恋人と歩く者、あるいは1人で歩く者とデパートへと訪れた目的や行動は様々である。

 しかし、桔梗達が現れた瞬間、そんな多種多様な彼らの視線は一様に一方向へと向き──停止する。


 まるで時間停止の魔法を使用したかの様な周囲の反応。普通ならば「何が起きたんだ!?」とギョッとしてしまいそうな程に異様な光景も、しかし桔梗達はいつもの事だと特に気にした素振りを見せない。


 桔梗達が歩く。フロアの人々が視線を向け停止する。


 そんな明らかに普通ではない状況をひたすらに繰り返していると、桔梗達は遂に食品コーナーへと到着。


 今回は1週間分の食材と翌日の弁当用の食材ということで、時折少女達に弁当関する要望を聞きつつ買い物かごへ食材を入れていく。


 そしてそのまま食品コーナーをぐるりと回って必要な食材を揃え、会計。


 ぎこちなくも素早い店員に任せ、全てをレジに通す。


 チラチラと少女達を見ながらも店員が会計ボタンを押し、ディスプレイに購入金額が表示され──桔梗は小さく目を見開く。


 ──うん、高い。


 今まで1人分だった食費が一気に5人分となれば、当然こうなる。

 勿論、桔梗自身もそれを理解していたが、やはり実際にその金額を目にすると驚きもひとしおである。


 当然今回は弁当用の食材を購入しており、その分割高だが、それを差し引いてもかなりの額と言える。


 とりあえず料金を支払いつつ、桔梗は思う。


 今後彩姫に頼ってばかりもいられない為、何かしら稼ぐ手立てを見つけなければならないな……と。


 ◇


 食材の購入を終えた桔梗はそれらを袋に詰めた後、周囲の視線や監視カメラに気をつけながら、その袋をアイテムボックスへとしまった。


 そして次は水筒などの購入という事で、フロアを移動し、行楽用品など雑貨類を扱う店が多く並ぶフロアへと到着する。


 と。ここで桔梗はうんと少し頭を悩ませた後、少女達の方へ向き直る。


「みんな、ちょっと良い?」


「どうか致しましたか」


 目をパチクリとさせるルミア。


「実はこのフロアで幾つか買っときたいものがあってさ、もしみんなが大丈夫そうなら一度別行動にしようと思って」


 弁当の要望があった為食材に関しては共に見て回ったが、雑貨は彼女達が直接関わりのある所ではなく、態々一緒に回る必要は無い。

 加えて水筒などは、彼女達がそれぞれ好きな物を選んだ方が良く、ならばここは別行動とした方が効率が良いと言う訳だ。


 また更に言うのであれば、彼女達も今後個別で出掛ける可能性もあるかも知れず、今回はその時の予行演習も兼ねているのである。


 そんな意図の元吐かれた桔梗の言葉に、シアが全く気負いの無い笑みを浮かべると、


「問題無いっすよー」


「その方が……効率……良い」


「らてぃね、おねーさんだから、だいじょうぶ!」


 桔梗はうんと頷き、


「よし、決まりだね。それじゃ……ルミア」


「はい!」


 近寄ってきたルミアに購入代金を渡し、集合場所を教える。


 そしてその後、手を振る少女達と別れた。


 少女達と別れた桔梗は、日用品コーナーへと移動しつつ、彼女達が上手く買い物できるかと少々の不安を覚える。が、誰かに絡まれる事については特に心配をしていない。


 というのも、今回は短時間という事で、人の注目を浴びにくくなる認識阻害魔法を使用しているからである。


 勿論完全に周囲の認識を逸らす訳では無い為、例えば人々の注目を浴びる様な突飛な行動を取れば、たちまち魔法の効力は失われ、人の目の届く所となってしまう。


 しかし今回はただ買い物をするだけであり、そこに注目を浴びる様な行動を取れる場面はない。


 という事もあり、桔梗はある程度安心しつつも、迅速に日用品の買い物を済ませた。


 そして集合場所へと向かう。


 集合場所にはまだ少女達の姿は無かった。


「ちょっと急ぎ過ぎたかな」


 そこまで心配はしていないとは言え、やはりどこか気が急いていた様で、だいぶ早く集合場所へとやってきてしまった桔梗。


 とは言え、早い分には決して悪い事は無い為、桔梗は集合場所付近に設置された椅子へと腰かけると、のんびりと少女達を待つ。


 そして5分、10分と経過し、そろそろかな……という所で、


「……あれ、いっちー?」


 桔梗の耳に何やら聴き慣れた声が届く。


 嫌な予感を覚えつつもそちらへと振り向くと、そこにはお洒落に着飾り、普段よりも大人っぽい雰囲気の有紗と柚菜の姿があった。


 学内で会う時とは違う同級生の姿に少しだけドキドキとしつつも、まさかの遭遇に、これはまずいと思う桔梗。


 しかし流石にそれを顔に出す訳にはいかない為、桔梗は汗をたらりと流しながらも笑顔を浮かべる。


「那月さん、三波さん」


 桔梗が言葉を返すと、2人は笑顔のまま桔梗へと近づく。


「奇遇だねー! 今日はどしたの?」


「別に何でも無いよ。ただ日用品を買いにきただけ」


「そっか、桔梗君一人暮らしだから」

「うへー、そりゃ大変だぁ」


「慣れればなんて事ないよ。それよりも2人はデパートによく来るの?」


「んーまぁ、よく来るけど、2人で来たのは今日が初めてだね〜」


「というより仲良くなったのも最近だし」


「あ、そうなんだ」


 あのコンビネーションというか、2人して彩姫との関係を追及する様は、とても仲良くなったばかりとは思えないレベルであり、桔梗は思わず目を丸くする。


「そそ。ほんといっちーに話しかけたのきっかけだよ」


「「ねー」」


 言って2人は仲良さげに顔を見合わせた。そして一拍置き、有紗が再び口を開く。


「いっちーの様子的にもう買い物は終わった感じ?」


「そうだね、ついさっき終わったよ」


 桔梗の言葉を受け、有紗は少しだけ考える素振りを見せた後、あっけらかんとした様子で、


「ん、ならいっちーも一緒に遊ぼ?」


「あ、良いね! 桔梗君、どうかな?」


 有紗の言葉に、柚菜はうんうんと頷く。


 今まで学校の友人と遊びに行った事の無い桔梗からすれば、非常に魅力的な提案。しかし──


「ごめん、遊びたいのはやまやまだけど、実はこの後少し用事があってね」


 嘘をつくのは忍びないが、この際仕方がない。……というよりも、このままだと大変な事になると少々焦りつつ口を開く。


「ありゃ、いっちー忙しい感じ?」


 有紗の言葉に桔梗は曖昧な笑みで、うんと頷く。


「そっか、ごめんね呼び止めちゃって!」


「いや、話しかけてくれたのは凄く嬉しかったよ」


「そう? なら、良かった!」


「また後日誘ってくれると嬉しいな」


「うん、また今度誘うね!」


「さ、そろそろ行くか。……んじゃ、またねいっちー」


「またねー」


「ん、また月曜日ね」


 言って後ろを向き離れて行く2人。

 何とか危機は免れたと心の中で安堵の息を吐く桔梗。


 ──が、現実はそう甘くは無く、ここで。


「ごしゅじんたまーー!!」


 という遠方からの声と共に、駆け寄ってくるラティアナ。そして気に入った物があったのか、ニコニコとしながら後を続く見知った3人の美少女。


 ……あ、これは終わった。


 そう思いながら、桔梗は駆け寄ってくるラティアナを受け止める。


 そしてその後ゆっくりと後方に目をやると、そこには溢れそうな程に目をまんまるくした柚菜と有紗の姿があった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る