第12話 お披露目

 あの後も無表情でボケる沙織にツッコミながら歩いていると、ここで沙織が突如動きを止めた。


 ……なんだまたボケかな?


 と疲れを滲ませた桔梗が沙織の方へと目を向けると、彼女は何やら右手で右耳を抑えながらボソボソと呟いている。


 その声を聞き──というよりも勇者となり強化された聴力では意識せずとも聞こえてしまい──桔梗はなる程と理解した。


 と同時に沙織は耳元から右手を離すと、桔梗へと向き直り、


「……ただ今奥様から連絡がございました。どうやら皆様のお召し物が揃ったようです」


「もうですか。流石早いですね」


「……かなり興奮していらっしゃいましたから。その分いつもよりも気合いが入っていたのだと思います」


「……なるほど」


 言って桔梗は俊敏に動く彩姫母の姿を思い出し、小さく笑う。


 そしてすぐに沙織と桔梗は皆の待つ部屋へと向かった。


 ◇


 部屋の前へと到着した途端、少女達のきゃっきゃと楽しげな声が聞こえてくる。

 恐らく異世界には存在しないファッション且つ自身に最高に似合う服を身に纏う事でテンションが上がっているのだろう。


 その声を聞いていると、こちらの期待値もみるみる内に上がっていく。

 と同時に何故か少しだけ緊張を覚え、思わずこくりと小さく喉を鳴らす。


「では──」


 沙織が声を上げる。


 そして同時に扉を開け放ち……桔梗はその先に広がる美に言葉を失った。


 横で沙織は小さく微笑むと、


「……壮観ですね、桔梗様」


「……えぇ、本当に」


 沙織の言葉に頷く桔梗。

 と、ここで「あー!」と言う声が聞こえてくると共に、弾丸と見紛う程の勢いでラティアナが走り寄り、桔梗へと抱きついてくる。


「……ごしゅじんたま! らてぃのふくかわいい? かわいい?!」


 フワフワのドレスの様な真っ白いワンピースに身を包んだラティアナ。金色の髪を編み込みカチューシャ型の大きなリボンを付けている。……うん、文句無しで可愛い。


 だから心からの笑顔で、


「……可愛いぞーラティ! 天使みたいだ!」


「らてぃはてんしじゃないよ?」


 首を傾げるラティの頭を、髪型が崩れないように優しく撫でると、ラティはにへらと笑う。


 これを見て火がついたのだろうか、他の少女達も桔梗へと近づいてくる。


 ……これは、感想を待ってるのかな。


 思った桔梗は全員の姿を目に収めた後、再び心からの笑顔で、


「みんなも最高に似合ってるよ」


 と褒めるが、これに彩姫母がハァ……と大きなため息をつく。


「ダメよ〜桔梗君。女の子がせっかくオシャレしてるのよ? ちゃんと一人一人感想を言ってあげないと!」


 ニヤニヤ顔のままそう言う彩姫母。桔梗の横に立つ沙織も無表情ではあるが、心の中ではニヤニヤしているんだろうなと思わせる声音で、


「桔梗様。さぁ、皆様早く褒めてと尻尾を振ってらっしゃいますよ」


 沙織の声を受け再び皆の姿を見ていくと、全員からキラキラとした期待するような視線を向けられる。


 ……あぁ、これは逃れられない。


 そう思った桔梗は、1人ずつ感想を言っていくという行動に多少の恥ずかしさを覚えながらも、左から褒めていく事にした。


「ごほん……それじゃあ……ルミア」


「ひゃ、ひゃい……!」


 ピクッとした後、上擦った声を上げるルミア。王女という事もあり、異世界では基本的にドレスの様な服に身を包んでいたのだが、今桔梗の目の前に居るルミアは違う。


 薄い水色をしたデコルテシアーリブニットソートップスに、丈の長いドット刺繍の入ったチュール・スカートを履いている。

 トップスをインする事により彼女のクビレを強調していたり、レース越しに肩がチラと覗いていたりする事で、彼女が持つ15歳とは思えない色気を生かした服装になっていた。


「普段よりもカジュアルな服なのに、上品で清楚で……その、凄く綺麗だよ」


「桔梗様ぁ……」


 服装を褒める機会などそうそうない為、中々難しいなと思いつつ言った桔梗の言葉を聞き、ルミアは目を潤ませポワポワとした雰囲気になる。……これは喜んで貰えたのかな。


 よし、次は──


「リウ」


「……ん」


 リウは俯きながら時折チラチラとこちらへと視線を向けている。

 そんなリウはというと、黒色のゴスロリ風ドレスワンピースに身を包んでいる。街を歩く上では少々奇抜ではあるが、それが逆にリウの浮世離れした妖しい魅力を存分に引き出していると言える。


「ゴスロリ風ドレスなんて着こなすのは難しいのに……流石リウだね。凄く可愛いよ」


「あぅ……」


「シア」


「は、はいっす!」


 言ってピンッと立つシア。彼女の服装は前述の3人とは一転、非常にボーイッシュなものであった。

 デニムショートパンツに、黒のトップスを合わせ、上から花柄のあしらわれた藍色のガウンを羽織っており、身長167cmというスタイルの良さが際立つ仕上がりとなっている。


「元気溌剌なシアとボーイッシュな服装の相性は抜群だね。凄く可愛いよ」


「……うぅ……これは刺激が強いっす……」


 ……うーん。褒めるのって難しい。


 と思いつつも、次へと目を向ける。


「彩姫」


「……うん」


 いつもの強気な様相はどこへ行ったのか、顔を赤らめ、目線をキョロキョロとする彩姫。

 彼女の服装だけは、何故か再び豪華絢爛なドレスであった。

 ただし、髪型はいつもの様なツインテールではなく、編み込みとツイストを用いたサイドポニーテールになっており、深窓の令嬢のような雰囲気を醸し出している。


「ツインテールじゃない彩姫は久しぶりに見たけど、ドレスと似合っていて凄く綺麗だね」


「そう……ありがと……」


 照れからか、顔を赤くする桔梗と少女達。


 それを見て──


「青春してんねぇ……」


 目の前でイチャイチャしている皆に、彩姫母は生暖かい目でウンウンと頷くのであった。

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