第13話 はじめての連絡先交換
どうやら彩姫母は、彼女達の服を他にも幾つか揃えてくれたようだ。
例えば現状のリウの服は街を歩けば目立つ格好ではあるが、他のものはもう少しカジュアルなものを選んでくれたようである。非常に助かる。
ただ、リウは今の服を物凄く気に入っている様なので、何となくこのまま外に出そうな気はするが……。
とりあえず服はアイテムボックス──空間魔法を応用し彩姫と共同で作成──へと入れておいた。
その後彩姫母の提案で昼食をとり、食休みを挟んだ所で、彩姫母がさも当然といった様相で本題へと入る。
「あ、そうそう、桔梗君」
「はい、何でしょう」
「この子達の戸籍とか、そういうのはこちらで何とかしとくから……安心して良いわよ」
「……ありがとうございます、本当に助かります」
「いいのいいの。可愛いこの子達と、彩姫の大事な大事な桔梗君の為だもの」
「マ、ママ!?」
彩姫が顔を赤らめながら彩姫母の方を向く。
しかし彩姫母はそちらには触れずに話を続ける。
「……あ、ただその代わりにちょっとしたお願いを聞いて欲しいんだけど」
「お願いですか。ええ、叶えられるものならば」
「……じゃあ、たまにで良いからみんなでうちに遊びに来てくれないかしら」
「……えっと、それだけで良いんですか?」
ラティアナ達の戸籍云々を揃えるのは間違いなく相当面倒な事であり、彩姫母の要求もそれ相応に大変な事だと考えていた桔梗は拍子抜けをする。
しかしそんな桔梗とは裏腹に、彩姫母は真っ直ぐな眼差しで、
「それだけで良い……というか、それしか嫌ね!」
「別に僕は構いませんが、みんなは──」
言って周囲へと目を向けると、少女達は笑顔でうんと頷く。
「──うん、問題ないみたいです」
桔梗の声に彩姫母の目がキラキラと輝く。
と、ここで。退屈していたのか、妖精姿のままふよふよと漂っていたラティアナが、彩姫母の前へと行くと、
「らてぃね、ままたますきー!」
瞬間、ズキューンという音が聞こえてきそうな程にのけぞった後、崩れ落ちる彩姫母。
……いやあれは仕方がない。ラティの笑顔と「すき」の破壊力はそれ程までに凄まじいのだから。
そう思う桔梗の前で、テーブルに崩れ伏していた彩姫母がポツリと声を漏らす。
「……養う」
「え?」
「……ラティアナたんは私が養うわ! 決めた、もう決めたん──」
バッと立ち上がり宣言するかのように口を開く彩姫母。しかし言い終わる前に、妖精姿のラティアナがそれに被せるように、
「──でもね、ごしゅじんたまとみんなのほうがもっとすきー!」
「……そ、そんな──」
ラティアナの言葉を受け、ガックリと崩れ落ちる彩姫母。そんな彩姫母を、妖精姿のラティアナがチョンチョンと指先でつつく。
……うん、これがラティ沼に嵌った人間の末路か……。
彩姫母の、ある意味では醜態とも言える姿に、苦笑する桔梗。
とここで、思い出したとばかりにハッとし、彩姫の方へと視線を向ける。
「あ、そうだ。彩姫……明日って時間ある?」
「……えぇ、特に予定は無いけど……何かしら?」
「実はみんなの日用品を買いに行こうと思ってさ。ただほら、男の僕だとわからない事もあるから彩姫も来てくれると助かるなーって思って」
「あぁ……なるほどね。別に良いわよ」
「まじで! ありがとう!」
「……というより私がいないとあの子達の日用品揃えるお金が無いんじゃないの?」
「……いや、一応生活費として両親が残してくれたお金があるから、買えなくはないよ……ただ、うん彩姫の力添えがあった方が間違いなく助かるけど……」
苦笑を浮かべる桔梗に、彩姫は相変わらずねと小さくため息をつく。
「まったく……で、時間とか集合場所とかどうするの?」
「そういう詳しい話は後で伝え──って、そういえば彩姫の連絡先何も知らないや」
思い出したかのように言う桔梗。2人は目を丸くする。
「……そういえばそうね。…………ん、これ私のFINE ID」
言って、コミュニケーションアプリであるFINEのIDを見せる彩姫。
対し桔梗は一度それを見つめ、次に自身のスマホへと目を向けそのまま何かを考えるかのように動きを止めた後、
「…………えっと、これどうすれば良いの?」
「はぁ? 何言ってんのよ。そんなの──」
言いつつ、彩姫は桔梗の隣へと行く。
そして桔梗のスマホを覗き──ここで彩姫は驚愕に目を見開く。
何と桔梗のFINEの友達欄には誰の名前も無かったのである。
「桔梗……あんた…………」
「ちょっと、かわいそうなものを見る目でこっち向かないで」
「いやだって……てか何でクラスのグループにも入ってないのよ」
「……気づかない私もおかしいけど」と彩姫は続けるが、致し方が無い事ではある。あの時の彩姫は大の男嫌いだったのだから。
「……いや、誰にも誘われなかったし」
「……そうね、確かに3年前はそういうキャラだったわ。……貸しなさい」
言って桔梗のスマホを手に取る。次いで彩姫が慣れた手つきで操作すると、「ほら」
と言って桔梗にスマホを返す。
桔梗が画面を見ると友達の欄に彩姫の名前が。あとはついでにやってくれたのか、クラスのグループにも追加されていた。
「おお!」
珍しく桔梗のテンションが目に見えて上がる。……が、この時2人は失念していた。
確かに2人は3年という月日を共に過ごし、最早家族と言っても過言ではない関係にはなったが、それは異世界での話という事を。
彩姫が桔梗をグループに招待したと同時に、クラスメイトが『大の男嫌いな彩姫が、何で男……それも影の薄い桔梗なんかを招待したんだ!?』と驚愕し、皆様々な感情を抱いているのだが……現状の2人はそれぞれ別の理由で浮かれるがあまり、その事に一切気づいていないのであった。
「……じゃあ、後でFINE送るから」
少しだけ頬を赤らめ小さな声で言う彩姫に、桔梗はウンウンと頷いた。
……と、その2人の様子をいつのまに復活したのか彩姫母はじっと見つめ、何か思う事があったのか口を開く。
「ねぇ、彩姫」
「なに、ママ」
彩姫母の方へと目を向ける彩姫。そんな彼女へ、彩姫母は何もおかしな事はないとばかりに単調な声で、
「どうせ明日も会うのなら、桔梗君の家に泊まってくれば?」
彩姫母の提案に彩姫は今日何度目かボンッと顔を赤くし、その隣で桔梗はまさかの提案に、
「────はい?」
と困惑の声を上げた。
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