第11話 メイド(沙織)の本性

という訳で沙織の案内の元桔梗は屋敷内を歩く事に。


沙織と並び歩きながら、桔梗は都会に来た田舎者のようにキョロキョロと辺りを見回し、改めて屋敷の広さ、この屋敷を建てられる程の経済力を有する彩姫母に畏敬の念を抱く。


「立派なお屋敷ですよね」


そんな桔梗の思考を読んだのか、沙織が話しかけてくる。


「ええ、本当に」


「……私も最初は驚いたものです」


相変わらずの無表情ではあるが、どこか感慨深げに呟く沙織。桔梗はちらとそちらへと目を向けると、ふと気になった事を聞いてみる事にした。


「……沙織さんはどうして水森家のメイドになったんですか?」


桔梗の質問に、沙織は一瞬桔梗の方へと目を向けた後、昔を思い出すかの様に視線を上へと向ける。


「どうして……ですか。そうですね──」


言って一瞬目を瞑った後、桔梗と目を合わせると、


「──少し長くなりますが、宜しいですか?」


「ええ、構いませんよ」


長くなるという言葉に、そこまで歴史があるのかと少しだけ緊張しつつも頷く桔梗。

そんな桔梗の横で沙織は懐かしむ様に目を細め──


「では……あれは確か私がまだ赤ん坊の頃──」


「あかっ……!? あ、すみません。随分と遡るんですね。てっきりここ数年の話かと」


思わず話を遮ってしまう桔梗に、沙織は特に気にした様子もなく平然と、


「はい、奥様と出会いこの屋敷に来たのは4年前ですね」


「………………ん?」


沙織の言っている事が理解できず、思わず沙織の方を向く桔梗。

対し沙織も桔梗の方へと目を向けると、


「ジョークです」


「……ジョ…………え?」


「ジョークです」


ジョークらしい。


「な、なるほど」


「……因みにメイドになった理由は高待遇だったからです」


「うわ、現実的ッ……!」



その後も、沙織主導の元屋敷の案内が続いて行くのだが、この辺りで先程一瞬だけ垣間見れた、沙織の本性が明け透けになっていく。


「こちらがリビングです」

「豪華絢爛!」


「こちらが浴室です」

「公衆浴場並の広さ!」


「こちらが……彩姫様のお部屋です」

「……いや、その紹介いります?」


思わずツッコんでしまう桔梗。対し沙織は相変わらずの無表情のまま、


「間違えて入ってしまったら大変ですから」


「……ま、まぁ確かに?」


彩姫の部屋に限らず勝手に部屋へと入る事など無いような気もするが……。


「因みに、万が一間違えて入ってしまった時の為にお教えしておきますと、白いタンスの上から2段目、そこに彩姫様の下着が入っております」


「何言っちゃってんの!? ……いや、てかなんでそんな事把握してんの!?」


「メイドの嗜みです」


「そんな嗜み捨てちまえ!」


ツッコみながら、桔梗の脳内には彩姫の言葉が甦っていた。


『うちの人に送迎をお願いするわ。……あぁ、安心して。運転手も信用に足る人物よ……少し変な人だけど』


……なる程と桔梗は思う。


どうやらただの寡黙美人かと思いきや、沙織さんは無表情でボケたり天然発言をしたりするとんでもない人のようだ。

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