6

 その日は会社の忘年会だった。滅多に来ない片町かたまちの繁華街で、酔っ払った俺はバス停に向かって歩いていた。


 路地を曲がった時だった。


 そこに、高岡さんが、いた。男と二人で。


 一瞬で酔いが覚めた。


「長坂さん……!」


 彼女は呆然と立ち尽くしていた。隣の男は、酔っているのか赤ら顔で、


「なに? 僕の彼女に、なんか用?」


 そう言って、彼女を抱き寄せる。


 俺は無言できびすを返し、走り出した。その背中を彼女の叫びが追いかける。


「待って!  長坂さん!  違うの!  この人は取引先の……」


 ……。


 まったく、浮気がバレたときの女のセリフって、法律で決まってるんだろうか。まるで判で押したみたいに同じだ。


 だけど。


 奇妙なことに、俺は安心していた。


 やはり彼女は俺を裏切っていた。でもこれで、またいつか裏切られるかもしれない、という不安から、俺は解放されたのだ。


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