3

 それからほぼ一週間後の月曜。


 久々に残業が早く終わり、二〇時過ぎに駐車場に向かっていた俺は、車の前にポツンと人影があるのに気づきギョッとする。


 な、なんだ……?


 恐る恐る近づくと、その人影がいきなり俺に向かってお辞儀をする。


「こんばんは」


 女の声だった。


「あの、長坂健太さん、ですよね?」


「え……?」


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 彼女は、高岡千晶、と名乗った。年齢は俺よりも三つ下。一週間前に俺が医王山でレスキューした相手だった。


 名刺を見ると、某電力系インフラ企業のR&D事業部主任、とある。俺もインフラエンジニアだが、コンピュータネットワークのそれだから畑違いだ。


 何で俺の名前が分かったのかというと、わざわざ俺の車のナンバーから興信所を使って調べたのだそうだ。マジかよ……


 とにかく、そういうの迷惑だからやめてくれ、と言っても、彼女はどうしてもお礼をさせてくれ、と言って聞かない。そうこうしている内に俺の腹の虫が鳴いてしまい、それを聞いた彼女が、ぜひ夕食を奢らせてください! と言ってきた。


 そこで俺は考えた。


 どうもこれはヘタすればストーカー案件になりそうだ。こういう相手は無碍にすればするほどヒートアップするという。それに、彼女は俺の個人情報を興信所から入手しているかもしれんが、俺は彼女について何も知らない。ここはやはりこちらも相手から直接情報を引き出しておくべきだろう。敵を知り己を知れば、というヤツだ。


 というわけで、俺は彼女と夕食を共にすることにした。


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