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〇℃の空気は三〇℃のそれに比べて、密度が一〇パーセント濃い。だから、冬の空気は夏のそれよりも、堅くてマッシブだ。
冬生まれだから、というわけでもないのだろうが、俺は昔から冬の空気が好きだった。肌を刺すような冷気に包まれると、ピリッと身体が引き締まる。
そんな空気と美しい雪景色を求めて、俺は家から車で十数分の
周りに集落も無いような細い山道は、当然除雪なんかされていない。しかし、俺の目の前の道路には、既に一つ車の轍ができていた。こんな、何もない寒いだけの場所にわざわざ来るなんて、物好きもいいところだ。人のことは言えないが。
ようやく俺は轍の主に追いついた。驚いたことに、ラパンだった。だが、どうやら
と、運転席からコート姿の女性が降りてきた。見た感じは二十代くらい。あまり化粧っ気はなさそうだが、顔立ちは端正だ。
俺の車の運転席に近づいてきたので、俺は窓ガラスを下ろして声をかける。
「どうしたんですか?」
「すみません……車が動かなくなっちゃって……携帯も圏外でJAFも呼べなくて……」彼女は眉根を寄せてみせる。
「ええと、どうしてもこの先に行かなきゃならないんですか?」
「いえ……そういうわけでは……」
「それじゃ、引っ張りますから、運転席でハンドル握っててください」
「分かりました。ありがとうございます……」
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俺は少しバックして道が広くなっているところでUターンし、またバックで登って彼女の車の後ろ1メートルに停める。彼女の車の中を見ると、同乗者はいないようだった。
そして俺は、常備しているソフトカーロープで自分と彼女の車を結び、運転席に戻る。
4Lの一速で発進。軽いショックと共に一発でラパンのレスキューは完了した。
「ありがとうございます! 本当に助かりました」彼女は俺に向かって深く頭を下げる。「あの、このお礼は……」
「あー、そんなのいいから。それよりも、なんでこんなところに来たんですか?」
「……」
彼女は言葉につまっていたようだが、やがて、呟くように言った。
「少し……一人になりたかったから……」
その一言で俺は何となく察する。こいつは訳アリだ。関わらない方がいい。
「そうですか。まあでも、あんまりムチャはしないようにね。それじゃ」
「あ、待ってください! せめてお名前だけでも……」
「いいって! お礼とか迷惑だからさ! じゃあね!」
言い捨てて俺は車を発進させる。ルームミラーを見ると、俺の方に向かって深々と頭を下げている彼女が、みるみる小さくなっていった。
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