俺が好きか? 私のこと好き?
藤原
第1話
「今日から、この家に住むんだから、翔ちゃん早く慣れていってね」
「……ありがとうございます」
「気持ちは少し落ち着いた?」
「はい、とりあえずは落ち着きました。ただまだあまり受け入れられていない部分もあります」
角谷翔は恐る恐る言った。それを聞いた、奥野紀美は影を落とした。そんな、重たい会話をしている所にドタドタと階段を駆け下りる音が二人の耳に入ってきた。
「あ、翔! 片付け終わったの? 終わってたら、出かけよ!」
奥野家の長女、優姫だ。優姫と翔は互いに幼馴染である。そして、二人の両親も仲が良く、父親同士が親友であった。
このまま家族ぐるみでの付き合いは続くものと思っていたが、二週間前一変した。両親と兄が、大学の一人暮らしのための物件を下見に行った際に、乗っていた車が居眠り運転をした、大型トラックと正面衝突をして、爆発炎上したのだ。セダンは潰れ、焦げて原型を留めていなかった。
翔は、三人の遺体と対面しようとしたが、医師に止められた。
もし、家族の姿を留めておきたいのなら、ご両親は観ない方がいい。お兄さんはかろうじて見られると、言った。翔は、両親の最期の姿を見ることはできなかった。
一度に三人の家族を失ってしまったのだ。そこからは慌ただしい日々だった。翔は、どこかの親戚に引きとられるはずであったが、殆どが高齢であったこと、若い親戚も翔の両親の遺産狙いであることが明白であった。その遺産の相続のゴタゴタについては父親が万が一のために手紙を残していた。
奥野家の悠馬を頼りなさいと。その言葉に従い相談すると、その家で引き取られることになった。なんでも、互いの両親の間で決めていたらしい。親戚関連で揉めたら、遺児は引き取るということを。
用意周到で翔は涙が出てきていた。
そのために、落ち着く暇もなかった。優姫は気が強く、頼れる存在。それ故に、翔は弱い姿を見せたくなかった。
「片付け終わったよ。優姫のおすすめの店でもあるの?」
「あるよ」
目をきらりとさせて、優姫は返答した。
そのまま優姫に連れ出されて案内されたのは墓地だった。正確には墓地の横にあるペットのお墓。
「翔ちゃん、覚えてる? 昔私の飼っていた本当に大切にしていた猫が死んじゃって凄く塞ぎこんじゃった時のこと」
「覚えてるよ。でも、比較したくないし、比較するのも申し訳ないと思う。だけど、慰める気なら少しやめて欲しい」
「違う。それを言おうとここにいるんじゃない。慰めようなんて、そんなこと私はどんなに考えてもできることじゃない」
優姫は断言した。
「なら、なぜ?」
「ありがとうって言いたかったから」
少し顔を赤くして照れていた。
「あの時の私は確かに翔のお陰で立ち直れたから。だから、そのお礼をしたかった。こらからさ、同じ屋根の下で一緒に暮らしていくんだもん。心に引っかかってることスッキリさせたかったから。その、ダメ……だったかな?」
「ダメなわけないさ。これから、暫く一緒に暮らすんだな。でも、おばさんには感謝かな。引き取る時も自分の家族は大切にって養子ということにはしなかったからな。一応倫理的には付き合ってその先に行っても問題ないんだから。おばさんたちが認めてくれるかは別だけど」
「……はぁ?」
優姫は数秒立ってようやく言葉の意味を理解したのか錯乱していた。
「ちょっ、話飛躍しすぎじゃないの? ていうか、私にその気あったの?」
「落ち着け、あくまで可能性の話だよ」
限りなく可能性の高いな…、と心の中で翔は呟いていたのだが、そんなこと照れくさくて優姫の前で言えるわけがない。
「そ、そうなんだ」
優姫は少し、しゅんとした。
「ま、そんな気を落とすこともないだろう。時間は沢山あるんだから」
「そうね! あなたの心を時間を使って揉みほぐしてあげるから。私が支えになるから」
「ありがとう」
—————————————————
《後書き》
こちらはかなり前に書いた短編となります。よってオチはないのですが楽しんでいただのだとしたら幸いです。
俺が好きか? 私のこと好き? 藤原 @mathematic
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます