第11話 招集

「なんだなんだ!」

 アトンがヴァンの前に出、シュピオが後ろに隠れた。

「隊長……」

「若いの」

「痛いぞ」

「苦しい」

「ひどいよ」

「恨めしい」

 例によって亡霊たちはヴァンの周囲で呪詛をまき散らし始めた。

 いつものヴァンなら甘んじて、否、活力とするためにそれを受けただろう。しかし、『部屋』の外での遭遇は想定していなかった。

つい先ほどもあくまで『要塞』の内部に留まっていた、それが何故ここまで出てきたのか。

「よしっ」

「て、てめえか!」

 リーラが手を叩いているのをアトンが睨みつける。

「どういう―」

「良い陰気だからちょちょっとね。あ、ほらほら」

「……」

「え?」

 シュピオに裾を引っ張られ、その光景を見たアトンは愕然とした。

 ヴァンが亡霊たちの下敷きになって姿が完全に見えなくなっていたのだ。

「何やってんだお前ら!」

 どうすべきか迷い立ち尽くしているゲッサを無視して、アトンは山と化した亡霊の重なりを頂上からむしり取ろうとした。

 瞬間、その山が消失する。というよりも、『圧縮』されていくかのように縮んでいった。

「-‼ -⁉」

「んー、だあ?」

「おお、予想以上!」

 それは異形であった。

 亡霊たちの肉が混じり合い、重なり合い、ヴァンを包んで人型を形作っていた。

 一つ目の、斧を背負った怪物だ。

「ヴァンさん!」

「! !」

 アトンは亡霊たちを引きはがそうとしたが、怪力をもってしても揺るぎもしなかった。

「いやー、素晴らしい!」

「⁉」

 リーラが満足そうにヴァンの肩を叩いた。

「こういう陰気が僕は大好きなんだ! 同志よ!」

「貴様! 今すぐこれを解け!」

 迫るアトンであったが、リーラは少しも動じずにヴァンの肩を叩き続けた。

「ヴェルサ姉さまのことも聞いてるよ! 恨めしいだろ?」

「一体なんですか?」

「おいヴァン!」

 ロデたちまでやってきて、部屋の中は混沌の極みとなっていた。状況把握を求める3人組、張り付いた亡霊たちをどうにかしようとするヴァン達、はしゃぐリーラ、食事の後片付けを始めるゼッタでごった返している。

「リーラ?」

「あ、姉さま」

「! !」

「うわっ、なに? ……ヴァン?」

「取れないんだ! こいつが―」

「ちょっと、僕のせいにしないでよ」

 ヴァイスが戻ってきても混乱は中々収まらなかった、結局真夜中になってようやく沈静化を見たが、ヴァンに纏わりついた亡霊たちは一向にはがれなかった。

「『要塞』の力なのです、お金が減っていました。ヴァンを護る鎧です」

「! !」

「窒息の心配はなさそうだが……」

 ヴァンの鎧は姿を変え続けていた。一つ目で斧を構えている以外は、固定のものを持ちえないようだった。

「私の刀も通らぬとは」

「無念です!」

 シェンら『夜の宣告』が涙する、彼女らがどうやっても引きはがすどころかヒビも入れられなかった。

「どうせヴァンがどうこうしてるんだろ?」

 セイドが言う、確かにアトンですら原因はヴァンにあるだろうと睨んでいた。そもそもが彼の『天臨』の一部である。

「どうにかできないか?」

「うーん、私もねえ……」

「格好いいからそのままでいいよ」

 アトンがリーラに怒りの唸り声を上げる。

「君が何かしたんじゃない? いつもそうでしょ」

「ちょっといじっただけだよ」

「やっぱりお前か!」

 アトンとヴァンがリーラに詰め寄ろうとしたが、アトンはゲッサによって腕輪を操作されて動きを止められてしまう。

「! !」

「何言ってるかわからないよ」

「何のためにこんなこと⁉」

「リーラは陰気なことが好きなのよ、大体どうしてここに?」

「姉さまが言ってた『有望株』が気になってさ。あと、この性格は『天臨』に引っ張られてだからね?」

 プロスはリーラが気にいらなかった、軽薄そうに見えてその実陰湿且つ他者を見下している気がしてならない。

「くそっ、どいつもこいつも……」

「待った、先に私に言わせて。長くなりそうだし。まず依頼の件は達成を確認したから約束通りに税収の4割は君たちのもの」

「毎月ごとに渡すのです!」

「それはいいわ、もう一つ」

「なんなのだ」

「……お母様がヴァン達に会いたいって言ってるのよ」

「⁉」

 ヴァン達はおろか、リーラまでも言葉を失った。想定外にもほどがある出来事なのだから。

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