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「バカなことを言うな!」
思わず声を荒らげてしまった。
「!」
ビクリ、と彼女が身をひるませる。
私自身の極めてプライヴェートかつデリケートな領域に平気で踏み込んできた彼女を、私は許すことが出来なかった。彼女の主張が正しいはずは絶対にない。私は彼女を睨みつけながら続ける。
「冗談もいい加減にしてくれ! タチが悪いにもほどがあるぞ……いいか、私には娘はいない……ジェニファーは、二十年前に私の目の前で車に轢かれて死んだ……お腹にいた娘も一緒に、ね……それ以来、再婚もしていないし、娘が出来るようなことをした覚えもない」
「ごめんなさい……先生を怒らせるつもりはありませんでした」彼女はすまなそうに
「だけど私は、本当にあなたの娘なんです。信じてもらえませんか」
「信じられるわけないだろう!」私は即答する。「信じる根拠が何もない」
「先生が母にプロポーズしたのは、金沢でしたね。国際会議が終わった後、兼六園で……」
「!」
彼女が言ったことは真実だった。しかも、私はそれを誰に話していない。妻も誰にも話していない……はずだった。
「そして、その時に渡した指輪が……これですね」そう言って、彼女は右手を差し出す。
薬指の指輪が、光を弾いていた。それも、私が妻に送ったものと全く同じデザインの。
「そんな……まさか!」
私は自分の机の、下から二番目の引き出しの鍵を開け、引き出しをスライドさせる。そこには妻の婚約指輪がケースに入れられて保管されていた。ケースの中を開けてみる。
「……!」
彼女の指輪と寸分違わぬものが、そこにあった。
つまり、彼女が今右の薬指につけているのは、これではない、ということだ。しかし、その指輪はカスタムデザインで、二つと同じものはないはずだった。コピーしようにも、少なくとも私が形見として受け取ってからは誰にも見せていないし、生前の妻も私以外には誰にも見せていなかったように思う。
「信じられない……」私の声は上ずっていた。
「
少し辛そうに、彼女が言った。
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