エルロティアの暗雲
「どういうことか、お聞かせください。ぼくは、姫様の力になります。どんなことがあっても」
「それは、わかっている。だから、迷っていたのだがな」
クラファ殿下が落ち着いたところで、ぼくは王たちの前で、ここまでの経緯を聞く。
「密使が持ってきた返答は簡単なものだ。“ヒューミニアの王族を害した大罪人を受け入れることはない。その者、
姫様の言葉に、アルフレド王が説明を加える。
「政治的な姿勢の表明だな。過去と現在、未来も含む関与の全否定。自分たちの関わりを認めているようなもんだが、他国からの干渉は止められる」
「姫様、先ほどいわれた“エルロティア王が母君を殺した”というのは?」
姫様の母君であるヒューミニア側妃アイラベル様は、五年ほど前に原因不明の病で亡くなられた。
それ以降、ヒューミニア内で急速に親エルロティア勢力の排除と粛清が行われ、王宮内でのクラファ殿下の扱いが急速に悪化した。それが、アイラベル様の弟である現エルロティア王ヘルベルの差し金だったというのだ。
にわかに信じがたい話ではあるが、信憑性はある。口ごもる姫様に代わって、王はぼくに教えてくれた。
「手を下したのは、おそらくヘルベルに雇われたエルフの傭兵だな。コルニケアから見てアイラベルの死の経緯は不自然過ぎた。その後のヒューミニア王家の対応も早過ぎ、落ち着き過ぎて予定調和に感じられた。二国の共謀と考えれば、クラファがヒューミニア王家から狙われていた理由と繋がる」
アルフレド王の言葉に、ぼくは内心少しゲンナリし始めていた。
「共謀、ですか」
「ああ。当初ヘルベルはエルロティアでの王位継承権は七位だった。三位の姉アイラベルは大国ヒューミニアの側妃になったとき継承権の返上を申し出たそうだが、どういうわけかエルロティアの先王はそれを認めなかった。となれば、娘であるクラファにも継承権は消えずに残る。しかも、ヘルベルよりも高い六位」
そこまで聞いただけでも、もう嫌な予感しかしない。
「アイラベルがヒューミニアに嫁いだ頃から、エルロティアで王族が
やっぱり。
火を見るより明らかというのはこのことだ。だが、止められないものなのか。おそらくエルロティア内外に、それで利のある連中も多かったのだろう。
「ヘルベルより上位の兄姉は全滅、いずれヘルベルを脅かす可能性のある下位集団も、大半が死ぬか不具になった。しばらくは鳴りを潜めていたんだが、おそらく知らなかったんだろうな。アイラベルの継承権が返上されていないことに」
「先王から伏せられていた可能性が高いです」
サシャさんが、情報を捕捉する。どうやら先王、ヘルベルの資質と性格に嫌悪感か危機感か不信感か、あるいはその全てかを抱いていた節がある。
その懸念は的中し、先王は
「アイラベルを殺し、残る先王の血筋はクラファだけだ」
「……わたし、だけ?」
「現在でもヘルベルの王位継承には疑問がある。非公式には、奴の血筋にもだ」
王妃には不義の疑惑があり、その追求を待たずに先王に殉死したとされる。
「それは、始末された?」
「だろうな。だから、現エルロティア王の権威に異を唱える資格と権利を持っているのは、世界でお前だけだ」
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