目覚めと出会い

 翌朝は快晴だった。

 転生して以来こんな良い天気なのは初めてかもしれない。久しぶりに美味しい食事をして、熱い風呂に入って、乾いた綺麗な服に着替えて、清潔なベッドでグッスリ寝て。


「幸せを形にしたら、こんな感じだろうな」


 “まるで生き返ったみたい”、といいかけて止めた。

 本来はこんな爽やかで幸せな感覚を指すんだろうけど、実際に体験した“生き返り”は、全然イメージと違ってたから。

 寝ているところを思い切り蹴飛ばされてドブに突っ込まれたような感じだった。

 あれは、もう二度と味わいたくない。

 この世界に来てから、幸せの基準も下落する一方だけどな。


 朝食も幸せを形にしたような香りと湯気に彩られた素晴らしいものだった。

 平たいパンみたいなものにナッツとハーブが入ったパテ、目玉焼きに具沢山なスープ。小鉢には不思議な香りのするピクルス。


「これは、魔力回復効果がある薬草を酢漬けにしたものだな。ヒューミニアでは、おいそれと買える値段ではない代物だが」

「へえ……そんな薬草があるんですね」


 ぼくは自分の魔力を実感したことすらないので、なんともリアクションしにくい。せいぜい珍味として味わっておこう。

 食後の香草茶を味わっていると、女将さんがやってきて巻き物状の手紙をテーブルに置いた。


「マークスさん、アンタとお嬢さんに会いたいってお客がいるんだけどね」

「客?」


 食堂の奥にある雑貨ブースで、ベージュのフードを被った女性がこちらに軽く頭を下げた。

 身長は百六十ほどあり、細身であまりドワーフという感じはない。ウェーブ掛かった栗色の髪がかろうじてドワーフっぽく、といったところ。種族的な問題は門外漢なので、深入りしないようにしよう。

 ただ、種族はともかく素性は気になる。敵意こそ感じられないものの、身のこなしに隙がない。どこかの諜報員というような印象を抱く。

 彼女が近付いて来るのを見て、ぼくはさりげなく身体を傾ける。懐に下げたM9自動拳銃ベレッタをいつでも抜けるように身構えたのだが、その前に姫様がこちらの警戒を解かせる。


「マークス、いい」


 手紙を一瞥して、姫様はテーブルの脇に立った女性に頷く。


「ケイブマンからの招待状だ」


 こちらに説明するかのように指先が手紙の封蝋を示すが、ぼくには見てもわからない。この手の格式張った手紙を託すということは、偉いひとなのだろうというくらいだ。


「思ったより早かったな」

「衆目を集めていらっしゃいましたから」


 クラファ殿下が苦笑すると、女性は頭を下げた。


「お知り合いですか」

「彼女の主人あるじが、母の知り合いだ」

「あるじ?」


「ああ。“巌窟王”アルフレド・ケイブマン。この国の、王だ」

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