王家の血
「姫様、このまま突破します!」
「良いぞ、進め!」
路上に築かれた南側バリケードの端をバンパーが跳ね上げ、ハンヴィーの巨体がメリメリと押し砕いて進む。周囲の兵士は死ぬか逃げるか動けないま転がって呻いているかだ。手出しできる状態の者はひとりもいない。
「
七、八十メートルほど先の北側バリケードはまだ健在だが、打って出てくる様子はない。
こちらに敵わないことは火を見るより明らかで、怯え震えているのは丸わかりだった。心が折れても動けないのは、兵士としての矜持なのか、何か別の理由でもあるのか。
ハンヴィーが三十メートルほどまで接近すると、城壁から飛来する鏃がパタリと途絶えた。これは、つまり
「姫様、もしかして魔力探知に反応ありません?」
「魔力……は、たしかにある。が、それ以前に、ひどく禍々しい気配がするな。なんだ、これは」
銃座から放たれたM240の掃射を、バリケードの手前に据えられた二本の柱のような物の間に出現した光の壁が弾き返す。いままでの魔導防壁とは強度が違うのか、追撃の銃弾も青白い光を瞬かせるだけで終わる。
「無駄だ、雌犬」
「なにッ⁉︎」
バリケードの奥から、指揮官なのか偉そうな人物が勿体ぶって姿を表した。
布陣している兵士たちと比較して身長は頭半分ほど高く、体格も大きい。おかしな光沢を持った青黒い甲冑を着込み、身長の半分ほどもある幅広の大剣を肩に担いでいる。
周囲には
「あの甲冑、鍛造魔導鋼だな。脈打つように魔導光が走っているだろう、凄まじいまでの魔導防壁を組み込まれている」
「いえ、ちょっと待ってください姫様。鎧の話はともかく、あれは誰です?」
「ああ、
「おとなしく、その首を祖国に捧げろ、国賊め!」
こっちの都合を無視して一方的に通告してくる。まるで、自分が国家ででもあるかのように。
「なるほど。それじゃ、あれがヒューミニアの?」
「ああ。ケウニアの血を引く軍閥の長、第二王子トリリファだ」
彼が腕を挙げると、バリケードの後方からソフトボール大の石が数十個、高速でハンヴィーに叩き付けられた。クラファ殿下はとっさの判断で車内に入っていて無事だったが、車体が大きく揺れて助手席前の窓ガラスにヒビが入る。
ぼくの車に何してくれてんだ、あいつ。
「トリリファは土魔法を好む。噂では、奴の配下もだ」
「姫様、
「無理、なのだろうな。いままでの戦闘で観察し分析してきたようだ。あいつめ、勝ち誇った顔をしている」
試してみる価値はある、けれども。下手な攻撃では、こちらが無防備になるだけだ。その隙を衝いて別働隊か支援攻撃かが襲ってくると見た。バックミラーには、遮蔽を縫って接近する人影が見え隠れしていた。
「……出てこい。遊びは、終わりだ」
ふざけやがって。こちらを甘く見ているなら好都合だ。
ぼくは運転席で“
対戦車ロケットのRPG-7とか? 威力は良いとして、単発ではちょっとばかり手が足りない。
攻めあぐねたこちらを見て、再び王子の手が挙がる。また大量の石だか岩だかがハンヴィー目掛けて降り注ぐ。嵩にかかって押してくる相手に防戦一方ではマズい。数の優位は向こうにある。このままではジリ貧だ。
「姫様、つかまって!」
ぼくはギアをリバースに入れて、アクセルを思い切り踏み込む。忍び寄ってきていた襲撃部隊がバックしたハンヴィーの尻に弾き飛ばされ、タイヤに轢き潰される。4トンを超える車重が圧し掛かっては多少の甲冑など何の意味もない。巨大なタイヤが乗り越え巻き込んだときには全身を砕かれ、壊れた人形のようになっていた。
「どうするマークス!」
「
「わかった!」
運転席側をバリケードから陰になるよう車体を右に向け、ドアを開けて外に出る。そのまま“武器庫”から購入した武器を取り出し弾薬を装填、ハンヴィーのボンネットを支えにして二脚を展開した。
ぶっつけ本番、“無敵の剣士な王子様”との距離は七十メートルといったところか。照準の先に、勝ち誇った顔が微かに見える。
「
シュドドドドドドドッ!
激しい銃火とともに巨大な薬莢が弾け飛ぶ。こいつに使用される12.7x108ミリ弾は、音も反動も威力もMG3やM240で使用される7.62x51ミリの比ではない。
王子に向かって吸い込まれていった銃弾は魔導防壁に当たって青白い光を放ったかと思うと、甲冑を粉々に打ち砕いで吹き飛ばし、周囲の兵士や魔導師たちごとバラバラの肉片に変えた。
「……まッ」
呆気ないほど一瞬で終わった殺戮に、クラファ殿下は銃座でポカンと口を開けている。
「……マークス。……なんだ、それは?」
「
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