剣尖

 太陽が、中天に上がっている。いまのところ雨はないが地平線近くには暗雲が立ち込め、湿った風も吹いていつ降り出してもおかしくない。

 ぼくたちは街道からわずかに逸れた岩場の上で、進行方向にある都市イメルンの脇を無事に通過するためのプランを考えているところだ。


「マークス、それは?」

「双眼鏡です。遠くのものが良く見えます。もうひとつあるので姫様もどうぞ」

「ほう、それは助かる」


 ケウニアの首都イメルンは人口四千ほどの都市だというが、ぼくにはその規模感がいまひとつ想像できない。防衛にどれほどの人員を配置しているのかもだ。


「ヒューミニアの王都が二万を切るくらいだから、その二割だな。防衛に掛ける人員は人口よりも立地と治安と経済に左右される。加えて隣国との関係だな。いまのケウニアなら、首都の常備戦力としては二百もあれば過剰だろう」

「それは、経済的に?」

「ああ。ほんの数年前、ケウニアは破綻の瀬戸際まで行ったのだ」


 クラファ殿下はぼくの疑問に答えてくれたけど、ヒューミニアとの人口比較はピンとこない。姫様もマークスも王城に半ば軟禁状態だったから、王都を歩き回った経験など監獄から脱出したときだけなのだ。

 ただ……


が異常事態なのは理解しました」


 イメルンの前を通る街道には、南北に防衛陣地が築かれ双方に百近い兵士が配置されている。

 イメルンの城壁に並んだ弓兵を見る限り、首都内部にはそれ以上の兵力が置かれているのだろう。


「ぼくたちの通過は予想されていたようですね」

「もしくは、監視されていたか、だな」


 そちらの方が問題かもしれない。武器と乗り物が把握されているとしたら、対処を考えられているということだから。


「ハンヴィーとM240に勝てると思っているのだとしたら、どんな手を出してくるでしょうね」

「屍の山で足を止めて射る、嫌がらせで疲弊させて機会を伺う。……せいぜいが、それくらいだ」


 それは余りに敵を侮った考えではないか、と考えたぼくの顔を見て姫様は首を振った。


「貴様には、理解できんだろうな。わたしは、ずっと考えていたんだ。、と」

「え?」

「矢を弾き攻撃魔法を防ぐ乗り物。魔導防壁を掛けた鉄張りの盾を貫く武器。おまけに、暗闇の森でエルフを屠るだ。敵からしたらどれも悪夢でしかない」


 それは、そうかもしれないけど。

 こちらにも自覚してない弱点や欠点くらいあるんじゃないのかな。きっと、それを突いてくると思ってた。


「わたしなら、過剰な兵力で進路上に派手な阻止線を築き、迂回させて罠を仕掛ける」


 つまり、いまケウニアの兵がやっていることだ。迂回を考え始めていたぼくは背筋が冷える。


「こちらの最大の弱点は、寡兵なところだ。敵からすれば、揺さぶり、疲れさせ、切り崩せば倒す隙も生まれると考えるだろう。マークス」

「はい」


「おそらく、ケウニアは消耗戦を仕掛けてくる。今夜は長い夜になるぞ」

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