仇怨

「げ」


 現れた騎兵を見て、ぼくは小さく呻き声を上げる。甲冑付きか……


「どうしたマークス」

「この銃の弾薬たまだと、金属甲冑は上手く貫通するぬけるかどうかわからないです」

「構わん。わたしにやらせてくれ」

「殺すなら、少し多めに撃ち込んでください」

「わかった」


 騎兵たちはわずかに速度を落とし、無防備な感じで近付いてくる。


「やはり、あれは近衛だな」

「え」

「一般兵士の甲冑を着ているが、先頭の男は公爵家の三男だ」

「どういう状況でしょうね」


 もしかして、今度は王と第一王子ケルファの派閥ということか?


「さあな。聞いてみるとしよう」


 いうなり両脇に侍る騎兵の面頰を上げた顔に一発ずつ撃ち込み、先頭の男の右手を弾き飛ばす。


「ぎゃあああぁッ!」


 何それ。姫様、サブマシンガンの扱い、ぼくより上手いよね。ていうか、こちらは教えてただけで未だ一発も撃ってないんだけど。ふつう、いきなりそこまで使いこなせるものなの?


「貴様、たしかカルフェンとかいったか? コールマー家の末弟だな」

「こ、国賊に、名乗る名はなぴッ」


 地べたに転がっていたカルフェンとかいう公爵家の三男が吠え始めたところで、姫様は顔面を蹴り上げた。血飛沫と歯が飛び散る。怖い。


「名乗る必要はない。祈れ」

「あッ?」

「這い蹲り赦しを乞え」

「誰が、貴様きひゃまになぴょッ」


 二度目の顔面キック。タクティカルブーツだから硬さはないんだけど、軸足のグリップが利いてるみたいで鋭さがハンパない。


「わたしにではない。お前が、お前たちが財産と家族と人生を奪った、我が北西領の民たちにだ」


 北西領。クラファ殿下が王から下賜された領地だ。土は痩せて山が険しく産物もない貧しい土地だ。とうてい王族が統治するような領地ではない。

 頻繁に水害に見舞われ大小の魔物が出没する北西領の民を、姫様は可能な限り助け支え慈しんできたのだ。

 しかし、開発の余禄で小さな銀鉱脈が発見されて以降、隣接するコールマー公爵領から盗賊団が頻繁に入り込んでくるようになった。

 王家からの嫌がらせでろくな領兵も与えられない北西領は、良いように荒らされた。おまけに追撃を受けるたび盗賊団は公爵領に逃げ込み行方を晦ます。殿下からの追求にも“当家とは関わりのないこと”という馬鹿にしたような返答があるだけだった。

 そして。


「北西領の民たちを、どこへやった。わたしが王都に呼び出された隙に入り込んだ“賊”は貴様らの手先だろう!」


 領民の八割にもなる三百人近い行方不明者を出し、北西領は事実上、破綻したのだ。

 領地破綻の責任は、クラファ殿下が王家から廃嫡される糾弾理由のひとつになった。


「殺した、に決まって……だろう、が」

「……三百、全員をか」

「脚を、落として、山に、捨てた。……誰も、帰らない、なら……魔物の、餌になった、ンだょ」


 歪んだ笑いに頰を揺らすカルフェン。姫様は静かにそれを見下ろす。


「なるほど」

「あ?」

「良い手だ」


 UMPから放たれた銃弾がカルフェンの肘と膝を砕く。あまりの激痛に絶叫する公爵家三男だが、クラファ殿下の声にピタリと声を止めた。


「そうだ。もっと叫べ。そして、呼ぶが良いぞ」

「ま、待て、やめろ……そんな」


「お前たちを喰らう……

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