森の怪異
「あれか?」
「聞いていた格好と違うようだが」
「構うものか。確認は殺してからでもいい」
騒がしく回り込んでくる兵士たちを、クラファ殿下は憮然とした表情で待ち受ける。
「姫様、弾倉装着確認」
「よし」
「初弾装填」
「よし」
「安全装置解除、セレクターはセミオートで」
「セミオート、よし」
「肩の力を抜いて、指差すように、二発ずつ」
「わかった」
「では、ご自分の判断で攻撃してください」
木陰から顔を出した兵士たちは、フードを外した姫様の顔と金髪を見て嬉しそうな表情に変わる。捕まえるか殺すかすると、報奨が与えられるのだろう。手槍を携えてはいるが、向けるどころか構えてもいない。
ぼくも姫様も強そうには見えないから、自分たちが殺されることなど考えてもいないのだろう。
「国賊クラファ! 友邦ヒューミニアの協定により貴様を拘束する!」
「大人しく従え! さもない、とひゅ」
ペスペスンと気の抜けたような音で、45ACP弾が兵士の胸倉に撃ち込まれる。左の兵士、真ん中の兵士、右の兵士。抵抗も反応もなく二発ずつ六発で全員が射殺された。
「すまんマークス。あまり練習には、ならなかったな」
「無事に終われば、それに越したことはありませんよ。弾倉を交換してください。使った六発分の装填をしましょう」
「わかった」
紙箱に入った45ACP弾を百発、SKSのクリップを引き取るとき代わりに渡してある。
手早く弾込めを終えたクラファ殿下に、ぼくは新しい装備を出した。用途を訊かれるだろうと思い、まず自分から装着して見せる。
いままで何を見ても比較的冷静だった殿下が、このときばかりは珍妙な顔でぼくを見返してきた。
「……マークス。これを、わたしが身に付けるのか?」
「はい」
「生き延びるために、必要なことなのか?」
「はい、もちろん」
“
どこで何した結果だか、汚れと臭いがキツいが、いまの風景とはかなり馴染みが良い。
こういうのって、狙撃手はその都度自作して調整して使い捨てるって聞いたけどな。
「……これで良いか」
「良くお似合いです」
「やかましい」
モコモコのモシャモシャな感じになったクラファ殿下は不服そうだが、視覚的なカモフラージュ効果は馬鹿にならない。
「おい、臭いぞマークス。この網、血の匂いがする」
「すみませんが、もう少しだけ我慢してください。ヒューミニアの追撃部隊を倒したら外して結構ですから」
「わかった」
えらくアッサリ納得したな、と思う間もなく理由がわかる。ぼくらが来た南の方角から蹄の音が響いてきた。たぶん三騎かそこらだ。思ったよりも少ない。
ぼくと姫様は小道の脇にうずくまり、走ってくる敵を待ち構えた。
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