第4話 恋人たち
俺たちは良い気持ちでレストランを出た。夜も更け、寒さも殊更だ。色とりどりに点滅を続けるツリーの周りにも人はまばらになっていた。
「最後に一巡しよう」
あいつは俺の腕を引っ張って巨大なツリーを回り始めた。恋人になってくれと心で幾度も黒漆の後ろ髪に問いかけながら俺はあいつの後ろを歩いた。あいつは時々立ち止まりうっとりする目でツリーを眺める。俺はその端正で大学生ながら幼さが残った美しい横顔を幾度も心の銀塩写真に刻む。愛情なのか恋なのか。友情という隠れ蓑の中で俺は一生夢を見続けるのだろうか。
ツリーには手すりが張り巡らされてその後ろは狭い通路になっている。そこを通ろうとした時、あいつは急に立ち止まり俺の胸にその背中が軽くぶつかった。。えっと見る俺にあいつはその手すりの暗がりを指さす。
そこには手すりに寄りかかった者と、覆い被さるように口づけをするカップルがいた。
「あれは・・・」
先ほど居た白ジャケットとスーツのカップルだ!お互いに唇をむさぼりその息づかいが聞こえる。
俺たちはしばらく唖然として見ていたが、あいつが俺の袖を引っ張った。俺も頷き戻ろうとすると、
「離して!もう嫌だ!」
白ジャケットが甲高い声でスーツを突き飛ばした。歩道に居た人たちもその声に驚いて見た。
白ジャケットの子は、はあはあと息を継いで手すりにもたれながら下を見ている。泣いているようだ。スーツの男はどうして良いか分からないように、彼を愛おしそうに見ている。
白ジャケットの若者が震える声で言った。
「・・・僕たち男同士だぜ!長続きなんかしやしない!それに誰も許してくれるもんか!」
衝撃的な言葉だった。
2、3組の男女のカップルが興味深そうに俺たちの後ろから見ている。
「俺は構わない!なんと言われようと!」
スーツの若者が悲痛な声で反駁した。
俺はあいつを見た。あいつは真剣な顔になって目を見開いていた。俺の袖を握ったままだ。
スーツ男は言った。
「俺はお前を愛している。そしていつまでも愛する!お前が真実を見たいのなら、俺の心臓をえぐって見せてやる」
おお~っと周りが湧いた。芝居か?・・・いや・・・
スーツ男はネクタイを取り、シャツの胸を思い切り開けた。ぶちっとボタンが飛んだ。そして目をいっぱいに開けて見つめる恋人の手を取って、その筋肉が張った美しい胸に当てた。
若く美しい恋人がその胸に飛び込んだ。どこからか拍手がしてきた。そしてそれがつられて段々大きくなって、クリスマスツリーの星々が燦然と瞬く広間に木霊していった。
・・・俺は横を見ると、あいつは涙を流して彼らを見ていた。
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