第一章

変わる日常は素敵な出会いなのか?

 万華鏡に同じ景色は二度と来ない。それはきっと人生もそうだろう。だから人は思い出として残し続けるのだ――。


 高校二年生の秋、受験生になる前の学校の修学旅行。住んでる場所や学校によって当たり外れがあって、学生は一喜一憂する。僕達の行き先は定番すぎる京都だった。京都に関しては中学生の時に行ったので、なんの興奮も起きなかったけれど、同じ中学、高校に通って過ごしてるはずの幼なじみの萩原大雅はぎわらたいがは、まるで初めて行くかのような顔でパンフレットを見つめている。

「なぁ。自由行動どこ行くよ?」と目を漫画のように輝かせてこちらを見てきた。

「まぁ、無難に店が並んでる所で食べ歩きとか、観光名所を見たりがいいんじゃない」と携帯をいじりながら話すのは幼なじみ二人目の高野椿こうのつばきだ。

 僕達三人は家族ぐるみの幼なじみで、学校はもちろん家族旅行なんかも一緒に行動することもある。


 グループに一つのパンフレットを三人で見つめる。

「この昔ながらの街並みが楽しめるって言うお店通りなんかいいじゃないか」

「昔ながらって言ったら最近の食べ物なんか売ってるか?」

「いや、昔ながらの食べ物を食べるからいいんだろ」そう言って提出書類に記入していく椿とパンフレットを置いて携帯で京都の旅のおすすめスポットを探す大雅。僕はなんとなく中学の時のとは違う京都を楽しめるそんな気がしていた。だから僕は柄にもなく楽しみになっていた。

 修学旅行初日はあっさり来て、姉や母に大量に頼まれたお土産リストの紙を持って、家を出た。椿と大雅と合流し、集合場所に向かった。

「京都で恋人出来たりしないかなぁ……。彼女と来年は二人で来ような! とか言っちゃったりして」とニヤつきながら言う大雅を

「無理だな」

「無謀だな」と椿と吐き捨てる。大雅はこれだからと呟きながら歩く。新幹線に乗ってからはしおり通りに進んで、歴史に関係する建物を回って、ホテルに行って夕食を食べて、就寝時間になったらねる。そして初日は何事もなく終わっていった。二日目は一日自由行動という事だったので、初めは観光名所の定番の場所を回って、古いお店が並ぶ通りに来た。通りを歩いていると、一本奥に小さな雑貨屋があるのを見つける。看板も出てないしお客さんがいる気配もしなかった。僕は吸い寄せられるようにお店に入った。店内に入るとヒノキの香りが僕の体を包んだ。とても温かくて少し寂しかった。店内を見渡すと小物や文房具がたくさん並んでいた。僕はたくさん並んでいる商品ではなく、棚の上にポツンと立っていた万華鏡に手をのばそうとした。

「珍しいお客さんだ」と奥から声が聞こえて僕は慌てて手を縮めて声のした方に目をやると、白髪で見ただけで感じられる優しそうなお婆さんが満足そうに顔をほころばせるので、僕は知らず知らずに心が癒された。

「素敵なお店ですね」

「ありがとうね。昔は雑貨屋じゃなかったんだけどね。ああ、その万華鏡は昔君と同じくらいの青年が置いていったものなんだよ」と言ってこちらに来て万華鏡を手に取る。

「見てみるかい?」と僕に渡してきた。

「……じゃあ。ありがとうございます」手にして覗くと色鮮やかな景色が広がった。青色や赤色、黄色や緑色など様々な形を創り出して僕の目に入ってきた。

 綺麗なのにどこか不思議な万華鏡の世界に、僕はすっかり魅了されていた。

「気に入ったかい?」と横で言うお婆さんに「とても」と一言呟いて万華鏡から目を離す。お婆さんは微笑みながら包み紙を用意し始め「あんたに渡すとするかな」と言うと手を出した。

「いや、でもこれ思い入れのある物なんじゃないんですか?」と万華鏡を渡す。

「物は時に人生を変える大きな力になる」

「人生を変える……」と、包み終えた万華鏡を僕に渡してお婆さんは奥に戻ってしまった。

「ありがとうございます」そう言ってお辞儀をして店を出た。


 外に出て綺麗に包まれた万華鏡を取り出してもう一度覗く。しかし真っ白な景色に慌てて目を離すと、見た事もない街並みに変わっていた。さっきまで一緒に居た椿と大雅を捜そうと歩き始めたが、そこでようやく僕の置かれている状況をなんとなく理解した。歴史の教科書でしか見た事がない様な格好をした人達ばかりだった。着物を身にまとって甲高い音の効いた下駄を履いて歩く女性や、袴にブーツで短い髪の毛に風がなびいた和洋折衷の女性。髷なんてものの名残が跡形もなく消えて黒のハットに黒いスーツに身を包んでいる男性などたくさんだった。当然僕は目立ってすれ違う度に見られ、居た堪れなくなり曲がり角で折れて住宅街に入る。一本中に入ればそこには優しい風が流れていた。木造の平屋や少し豪勢な二階建ての家、そこから聞こえてくる笑い声や話し声はとても穏やかで不安や恐怖よりこれから起きる出来事に対しての期待やワクワクが溢れていた。だけどそれを壊すようなことが目の前で起きていた。その時の僕にはこれから起きる不思議な物語の素敵な出会いだったのか、切なく寂しい出会いなのかは今でもわからない。けれどこの出会いによって僕の人生が大きく変わったのは確かだった。

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