4話

「あっ、咲。欲しい本、見つかった?」


 渉が私を見つけ、そう話しかける。


「うん、見つかったよ。つき合わせてごめんね、会計済ませたらほかに行きたいとこ行こう」

「うん?」


 きょとんとする渉。

 私は一刻も早く、本屋から抜け出したかった。

 阿部くんのことがあるからだ。

 私の思い込みが激しかっただけかもしれないが、どうもやっぱり嫌な予感がする。

 私は会計を済ませ、渉の手を引っ張り本屋から抜け出そうとした。


「あれ?渉?渉じゃん!偶然だね」


 その猫なで声を聴いて私は凍り付いた。

 私と会った時とは全然違う態度。

 阿部くんだ。


「おー、圭じゃん。やっほー」


 と渉は呑気に阿部くんに声をかけてしまった。


「今日はなにかあったの?」

「なにかっていうか、咲が本屋に用があったから寄ったんだよ。な?咲」

「う、うん。ありがとね、渉」


 私がそう言うと阿部くんは私を睨む。

 …しかも渉に見えない位置で。


「じゃな、圭。おれらこのあと寄るところあるからさ」


 と思ったより早く渉が話を切り上げる。


「ああ…。じゃあまた、学校で」

「お~、じゃあな~」


 私と渉はそうして本屋から出る。 

 でも私はずっと阿部くんの冷たくて痛い視線を向けられたままだった。



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Disturb Butterfly 夢月桜 @dreamoon0315

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