二話

 渉を待ってどれくらい経っただろうか?

 

「咲!」


 聞き覚えのある声が私の名前を呼ぶ。

 渉だ。

 ようやく、渉が来たのだ。


「渉、遅いよ…。いったい何してたの?」

「ごめん、朝起きたらスマホの電池切れてたのに気づかなくてさ…。それで急いでいたんだ」

「そうなの…ならよかった」


 本当にそうならよかった。

 先程阿部君を見かけたせいか、ちょっと不安だったから。

 ついに彼が渉に何かをしたのではないか、と一瞬ながら思ってしまっていたから。

 いくら私が阿部君を苦手だからって、そこまで悪く考えるのはよくないよね。


「それでスマホの充電は今大丈夫なの?」

「おお、そこらへんはばっちりだ!ちゃんと充電器持ってきたからさ…あっ…」

「『あっ』って…」


 渉の持ってきたものはコードだけだった。

 肝心の充電器を持ってくるのを忘れたっぽい。


「咲、充電器…もってない?」

「もう、しょうがないな…。はい、私の貸すから…」

「何から何まで悪いな」

「悪いと思うならご飯、おごって?」

「それくらいの覚悟はしてました…。どこがいい?」

「うーん、そうだな…。私、ここに行ってみたいんだよね」


 そう言いながら私は渉に行ってみたいお店を教える。

 私の行ってみたいお店はオムライスが有名なところだ。


「へえ、おいしそうだな。いいよ、そこ行こうか」


 私たちはそのお店へ向かうことに。

 

「どれ食べるか決めたか?」

「うん、私は決めたよ。これ」


 私はホウレンソウとチキンのホワイトソースのオムライスを。

 渉は唐揚げとエビフライが乗っかっているケッチャプオムライスを頼んだ。

 渉のこういう子供っぽいところも可愛いなと思える。

 でもこのメニュー、胸やけしそうだな。

 私には食べきれそうにない。


「お客様、お待たせいたしました」


 先に私のが来た。


「おお、うまそうだな」


 キラキラした目で渉は私のオムライスを見る。


「一口いる?」

「えっ?マジで?くれるの?」

「うん、いいよ。はいどうぞ」


 私は渉に一口分スプーンで掬ってあげた。

 渉はそれをおいしそうに食べる。


「あっ、うまい」

「ホントに?じゃあ、私も食べよう。いただきます。…うん、おいしい!」


 というやり取りをしていると渉の料理も来た。


「すごいボリュームだね…」

「咲も一口いるか?」

「…私は大丈夫かな?これだけで十分」

「そうか」


渉は少し残念そうな顔をしたが、自分のオムライスを食べ始めるとまたいつものように明るい表情をする。

その顔を見てつい私も顔がほころんでしまう。

幸せだなって私は思った。

そして私たちはご飯を食べ終え、店を出る。


「おいしかったな~!」

「うん、そうだね!」

「また行こう!おれ、この店気に入った」

「そう?よかった。そうだね、また行こう!」


 ご飯を食べた後、次はどうしようかという話になった。

 私たちがデートに行くとき、大体何がしたいのか決めずにいることが多い。

 私も渉も、お互いの顔を見れるだけで充分だからだ。

 学校でもあったりしているのに、そこが不思議なところだよね。

 恋愛って素敵だな。


「あっ、そうだ。おれ、欲しい漫画あったんだった!本屋に行ってもいいか?」

「うん、いいよ。私も丁度ほしい本あるし」


 私たちは本屋に向かうことにした。

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