第16話 董卓は何かもうどうでもよくなった
日本の戦国時代の悪人というと松永弾上秀久があがるだろう。
経過や事実はどうであれ、奈良の大仏を焼き、将軍足利義輝を殺し、主君の三好氏をのっとった。という3つの罪を犯したといわれている。
だとすれば董卓は洛陽を焼いて、元皇帝を殺すという2つの大罪しか犯していない。小物である。(個人の感想です)
だが、大罪でない罪は数え切れないほどで、本作の残酷描写は彼の所行を説明するためにつけたといえる。
そんな彼の悪行で比較的有名なものをあげてみよう。
董卓の悪行。(ちくま版 正史三国志1巻より)
※今回はグロテスク・猟奇的な内容を含みます。
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●洛陽の富豪を襲って金品を奪ったり、村祭りに参加していた農民を皆殺しにしたり、董卓の兵が毎夜のごとく女官を凌辱したり悪道非道を重ねた。
●長安に遷都したあと郿塢を築き、食糧を30年分を貯え、「事業が成功すれば天下を大きく占拠できようし、成功しなくともこの地を守ったまま老いを全うできよう」と言っていた。
●董卓は降服した北地の謀反人数百人を呼び入れ、座中で彼らの舌を切断し、手足を斬り落としたり、目玉をくり抜いたり、大鍋で煮たりした。まだ死にきれずに飯台の間で転げ回るので、列席者はみな震えおののいて箸を取り落とした。
しかし董卓は平然として飲み食いしていた。
●太史が気を観察して「大臣のうち刑死する者がありましょう」と言上した。故の太尉張温はこのとき衛尉であったが、もともと董卓と仲が悪く、董卓は内心、彼を怨んでいた。天気に異変が起こったので災禍を防ごうと考え、張温が袁術と交流していると人に言上させて笞で打ち殺した。
●董卓は長安に着くと太師と称し、董旻・董璜ら一族を皆朝廷の高官に就け、外出するときは天子と同様の青い蓋のついた車を乗り回した。
●長安でも暴政を行い、銅貨の五銖銭を改悪したために、貨幣の価値が暴落した。(董卓五銖銭と言われ、銅の量が少なく民間人が偽造した銅貨の方が価値があると言われた。)
●董卓に信任されていた蔡邕は董卓の暴政を諌めたが、一部を除きほぼ聞き入れられることはなかった
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以上が史書にある董卓の悪行である。ファンタジー世界の魔王でもここまで酷い描写は検閲に引っ掛かるために登場できないだろう。
物語以上に物語な現実の魔王。それが董卓という男である。
そんな彼だが、190年8月27日に帝を保護してからたった4日で至高の地位に上り詰めたシンデレラボーイでもある。
袁紹が宮廷で宦官を大虐殺してからおそらく次の日には、何死んだ進の弟と丁原の兵を吸収。(ついでに呂布をげっと)
この新しく手に入れた兵士を。毎晩城の外に出して昼に入場させるというハッタリで大兵力を持っているように見せかけ、司空と太尉の位を兼任。
時の皇帝を献帝へすげ替えるという離れ業を行ったのである。
たった4日で。
いかに董卓がエネルギッシュで、生き馬の目を抜くような存在か分かるだろう。
そんな董卓だが今世では
「故郷に帰って畑でも耕すか…」
と完全に燃え尽きていた…
「あー、いいですね。面倒な兵とか暗殺を企てる無責任な士大夫とかとおさらばして仙人みたいに暮らしたいですねー」と軍師的役割を持つ李儒が同意する。
こちらも玉手箱でも開けたかのように、顔が老け込んでいた。
「……お二人とも一体何があったのですか?」
董卓の配下で志し半ばで倒れた華雄は、かつての上司のあまりにも変わり果てた態度に抗議しつつ、驚きを隠せなかった。
「何かねぇ将軍。我が輩はもう疲れたんじゃよ…」
怪力と卓抜した馬術を誇った董卓は、苦渋と辛酸をなめ尽くした老人の様に呆けてしまっている。
「そういえば相国様(董卓のこと)兵士が兵糧がないとか言いだしてますよ…」
同じように仰向けになって寝転んでいる利儒が言う。
「そうか…まあワシの名を聞けば、中央政府からの食糧輸送も止められるじゃろうなぁ…」
かつてのおのれの悪名を理解しながら「ではそこらの村でも襲って食料を調達するか…」などと言いだした。
これに華雄は「あんたはイナゴか!」と眉を吊り上げる。
若い時、董卓はそれほど裕福でも無いのに豪族をもてなす為、大事な農耕牛を殺して一緒に酒宴を楽しんだ事がある。豪族たちはその心意気に感銘し、帰国してから家畜を互いに出し合い、千頭余りを董卓への贈り物とした。という気風の良さを持つ豪気な男だった。
それが、ちょっと兵糧が足りないだけで大事な領民に手をかけようとしている。
一体何が彼をここまで変えてしまったのか?
「将軍!何故ですか!中華を良くするという大望はどうしたのですか…」
何故なら華雄が死亡する前、董卓はこの中国の改革を夢見て、精力的に動いていたからだ。その理想を実現する途中で華雄は死んだとはいえ、あの華雄がここまでやる気をなくしているのが信じられなかった。
若いころには
「将軍。一体なぜそこまで情熱を失われてしまったのですか?私が死んでから一体何が起こったのですか?」
2mを超える巨体を揺らして華雄が尋ねると「思い出したくもないなぁ…」と言いながらぽつりぽつりと、自分からみた出来ごとを語り出した。
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次回は太宰治先生の名作「走れメロス」調に、董卓の理想とその挫折を追っていこうと思います。
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