第12話 天下の英雄が君と余だけだった時代

 長い事放置してすいませんでした。ある人物をどう描くか悩んでたら、

 このお話のデータがどこか行っててやっと見つかりました。


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 前回のあらすじ

『劉備被害者の会』から劉備一向は見事に逃げだせました

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「ふぅ…危ない所だった…」

 船の上で劉備が嘆息する。

 数回の逃亡で家族と兵士を見捨てたツケを払わされた感じである。

 『完全に自業自得』ともいう。

「そうだなぁ…あぶなかったなぁ…主に君のせいで」

 心底疲れた顔で曹操が言う。


 関羽が手配した船は、黄河へ流れ込む支流の一つを漂っていた。


「しかし、俺たちがそろって旅をするってぇのは久しぶりだな」

 張飛が懐かしそうに言う。

「そうだな、荊州に行くまでは趙雲の奴を含めて5人旅が多かったもんな」

 簡雍が感慨深げにうなずく。すると張飛は驚く。

「あれ?

「いたよ!最初から!演義で出てないだけでよぉ!」

 正史三国志を見ると、簡雍は早い時期から劉備と行動を共にしてたという。

 横光版三国志とか蒼天航路だと存在自体見えないけど。

「失礼だぞ張飛。えーと……………………ほら徐州で…使者として大奮闘してて…」

「……それは、おつかい孫乾じゃねーか雲長」

「まあ、似たようなものではないですか。能力値とか」

「グラフィックがぜんぜん違うだろぉぉぉ!!!色男が俺!!さえない事務職が孫さんじゃねぇか!!」

「言ってて空しくないですか?それ」

 ぎゃいぎゃいと叫ぶ天下の剛勇2人とおまけ1人。


「いつも、こうだったのか?」

 そんな3人を見ながら曹操は呆れたように酒を傾ける。洛陽で見た、澄ました関羽とはえらい違いだ。

「まあ、あれは憲和がいるからだろうなぁ」

 そういいながら、劉備が懐かしそうに眺め、姿勢を正して曹操に向かう。

「所で現状を確認しておこうか」

 歴戦の勇士が若者として蘇っているのだ。思わぬ伏兵がいるかもしない。

 黄巾の乱が始まるまで、政治闘争を繰り広げていた漢では士大夫と呼ばれる人材が公職から追放されていた。いわゆる「党錮の禁」である。

 そこで在野となった人間が乱の後少しずつ仕官し頭角を現したのが後漢の末だったが、そういう人間は兵力や財貨を今はまだ持っていない。


 この頃から役人として中央にいた曹操の方が、有力者には詳しい。

 そこで今の時代の実力者を思い返す事にした。

「えー、まず何進が大将軍」

 真っ先に曹操が名を上げたのはかつての上司だった。

「漢王朝、おわってんな」

 自分で言いながら、曹操は現王朝への感想を口にした。これに対し関羽以外の全員が「「「「ああ、実際終わったしな。おまえ等のせいで」」」」と皮肉った。

「え?漢が終わった?誰がそんな事を!」

 驚いたように言う曹操。

「おまえだ!おまえの息子!」

 劉備と張飛がつっこむ。漢が滅んだのは曹操と関羽の死後すぐである。

「あぁ…成るほど」

 色々と察した曹操は口をつぐんだ。

「気を取り直して、次に皇帝陛下は健在」

「第2手も最悪だな」

 三国志の原因となったと多くの読者から認知されている皇帝『霊帝』。

 近頃では『優秀だったんだけど結果が出る前に死んだし、漢王朝自体修復可能なくらい終わってた』という説もあり、実は財政再建のために売官を行い、皇帝直属の軍隊を作ったり、商売のまねごとも貨幣経済の学ぶためだったとか言われているが180年当時一介の県令でしかなかった劉備は面識がないので『よくわからんけどコイツのせいで乱が起こった』程度の人物でしかなかった。

「当然側近には十常待がいる」

「いたなぁ。そんなの。会ったことはないけど」

 皇帝も宦官も、当時義勇軍だった劉備では目通りなど出来ない存在だった。

「そして実際に兵を動かす中郎将(軍の指揮官。将軍より職責は下)が乱の平定に派遣されてたよな。董卓、朱儁、皇甫嵩、廬植殿」

「董卓以外はぱっとしねぇな。廬植先生は立派だが、罷免される予定だし」

 あ、そういえば先生は助けとかないとな、と劉備がそういうと、曹操は急にハハハと笑い声を上げた。

「何だよ、急に笑って」

「すまない。だが、こうしていると洛陽で君とと、思ってな」

「ああ、あのときか」

 呂布に城をとられ、一度だけ献帝の下にいたときの酒を飲んだときも、こうして天下の英雄について語りあったものだ。

 あのときは劉備が英雄を片っ端から上げ、曹操がダメだしをする立場だった。

「あったな。そんな事」

 あのときは雷に驚いたフリをしたっけか。命を守るためとはいえ少し恥ずかしい。

「そういえば曹操、君は我が輩がろくな地盤を持たなかった時に、よくあんな事言えたな」

 最終的には皇帝となった劉備だが、あの頃は単なる居候だった。それなのに、目の前の人間は「英雄は2人しかいない」と予言した。

「そりゃ、そうだ」

 曹操はあっさりという。


「あのときは『天下の英雄が君と余だけだった時代』だからな」


 その言葉を聞いて劉備は愉快そうに笑った。

「あのときは、って言うとやっぱり孫呉の小僧は英雄かね?」

 すると曹操は憮然としながも

「……まあ、認めざるをえんだろう。我々と同じ舞台で戦って生き延びた男だからな」

 まだ生まれて間もないだろう二人の好敵手に思いを馳せ、南の空を見る。


 夜天には、この世に再びよみがえった群雄のごとき綺羅星が絢爛と並んでいる。

 一際輝く星にや二番星、いろんな星がみんなまとめて平等に生まれ、そして消えていった時代だった。

 まあ三国志だと星占いが盛んなので、下手な描写をすると予言までしなければならなくなるから細かい描写は避けよう。


「あ、でも実際に戦ってみたら英雄はもう一人いたぞ」

 思い出したように曹操は言った。

「へぇ、君でも見落としていた男がいたかね」

「ああ、英雄と呼ぶには少し難があるが、あの男は強かった」

 はてさて、3人ほどいたがどの英雄だろう?劉備は考えた。

 曹操と英雄を語った時、既に死んでいた人間だから除外した2人がいたが。それ以外は曹操が否定した。するとなれば。

「あの男か」

「ああ、あいつだ」

 赤壁で二人の軍師が互いの手のひらを見せ合うように、二人は互いの目を見て笑いだした。

 一方は盟友として、もう一方は天下を争った好敵手として関わったあの男を、二人は実際にぶつかるまで正確に測る事はできていなかったのだ。


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本来は『悲劇の人、朱儁が戦車でやってくる』というお話をする予定でしたが、別の人物からお話する事にします。


 なお今回の話、ぜんぜん違う人間を言い合う。というオチを思いつきましたがやめました。

「馬超!」

「孔明!」

 みたいな感じで。(周喩でも可)

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