第9話 この頃の諸葛亮

「まあ行くなら青州だろうな」

曹操は言った。

青州とは劉備たちが今いる中国の北東、幽州から南に行った所にある。

陶謙のいた徐州から見るとすぐ北である。

「あそこに行けばわが精鋭の青州兵がいる。今は黄巾賊だが、あのままでは食料が手に入らない事は体験済みだ。きっと吾輩の心強い味方となる。そして益徳兄たちは徐州に行くとよい」

と続ける。

「何だ、お前ぇは自分の軍を手に入れるのが先ってわけか?」

乗っ取りを警戒して張飛がすごむが関羽が

「いや、今の時点で兵士を持っていないのでは危険だ。糾合できる勢力がいるなら早めに集めていた方が良いだろう」


 実はこの時点で黄巾賊と通じていた王宮の人間は密告者を私兵で殺させ逃亡していた。また、各地の太守で兵士が従う程度には善政をしいていた人間は裏切り者や怨みを抱いていた人間を反逆者として処刑を始めていた。

 将来名のある将軍となる人間も今はまだ市井の一人である事が多い。

 どれだけ優秀でもこの頃に死んだ多くの兵士の間では無名の人物であり、太守の命令次第では実力を発揮できないまま死ぬ可能性も多いにある。


 なお劉焉は兵士を扱う権力の無い刺史だったのと、後半生、皇帝を自称しようとしていた後ろめたさから自分の身を守る事に注力しており、劉備にまで手をまわしていなかった。


「まあ劉兄の場合、徐州か荊州に行けばかつての部下が安全に手にはいるだろうが、この乱世で戦えるほどの人数は手に入らないであろう」

「一々訂正はしないぞ曹操。まあ、確かに陶謙どのから国を託された徐州は我々とお前の首なら歓迎してくれるだろうな」

「さらっと弟を殺さないでくれるか劉兄」

 曹操は演義でも史実でも徐州の人間を虐殺している。(1p172)後に曹操は徐州をへいどんし、支配下に置いているが、今は彼に殺された人間が健在であり、憎いかたきとして一歩でも足を踏み入れれば殺されるのは間違いない。

「我が輩の場合、青州にいけばまとまった兵力が手にはいるだろうからそこで国を起こす。ここを拠点に徐州を併合し、一番の穀倉地帯き州を望むのが良いのではないだろうか?それにワシは伏龍にも会ってみたい」


伏龍。

三国志最高の軍師 諸葛孔明である。

三国志演義では何度も戦った2人だが、正史三国志では曹操の列伝に孔明の名前は一文字も登場せず、外交文書で会話した様子もない

荊州を併合した際に、現地の士大夫から噂は聞いていただろうが顔を合わした事は生涯無かったのではないだろうか?

「軍師殿、いや孔明殿は徐州の生まれと言っておられたな」

関羽がうなずいた。

「うむ、あの才能は実にすばらしい。現世ではまだ虐殺はしておらぬし、できれば力を貸して欲しい」

個人的には道義的な問題さえクリアすれば、曹操の権力と実行力に、演義孔明の智謀が加われば後漢の復興もできたのではないかと思う。

しかし、故郷の人間を殺され、それが原因で自分を養ってくれた叔父が死んだため孔明にとって曹操は仇である。

そんな事にこだわる人間ではないだろうが、仁義的に信用できない人間であったのは確かだと思われる。


ただ一つ問題がある。

「軍師殿、この時点だと3歳程度(数え年)…だったかな?」

「…………………赤ん坊………だよなぁ…」

生まれてはいるものの、孔明はまだ幼児なのである。


体を作るべき大事な時期に仕事などさせて大丈夫なのだろうか?


ここにいる4人とも孔明が過労死した事は知らないが、頑張りすぎる性分は知っているだろうし、なにより折角の親元にいる赤子を連れまわすのも気が引ける。

いくら天才的な頭脳を持っているからとはいえ、子供を大の大人が連れまわして政治をさせると言うのはいかがなものだろうか?


取り敢えずこの問題は徐州についてから考える事にした。


「だとすれば、ここで味方を集めてから青州兵を集めるのが最適だな」

そういうと一同は旅支度をする事にした。

「ところで長兄。なんで青州の黄巾賊はこいつに味方したんだ?」

「それは、曹操が道教を保護してたからだなぁ」

「道教ってなんだ?」

張飛は宗教がわからぬ。そこで劉備は言った。

「うーんそうだな。じゃあ三国志の風俗とかで必携の書、うまなみ三国志からかいつまんで説明してみようか」


「時空を超えた引用先 出すのやめてくれる?」


張飛はぽつりと抗議した。



※道教は老子を始祖とする宗教です。

三国志だと末流に漢中の張魯が広めた五斗米道などがあります。

人間にとって子孫を残し家を残す事が至上とする儒教と違うため、子孫を残せない宦官にも支持されたり、貧しい人間にも施しをあたえたので民間に広く布教されました。

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