第7話 閑話 袁家の憂鬱
袁紹の一族は生年が不明な人物が多いですが本作リバースでは
曹操の年齢から
袁紹は154年生まれ、長男袁譚は178年、次男袁熙が180年、末子の袁尚は182年の生まれと設定します。
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前世の記憶が良に働く事もあれば悪に働くこともある。
特に前世で怨みをかった人間にとってはやり直しの世界は地獄である。
『生まれ落ちるのは地獄の始まりだとすれば早く終わった方が良いのだろうか?』
袁紹の3男 袁尚(字は顕甫)は自問自答していた。
生前は袁紹の跡継ぎと目されていたが父が死んでからは仇である曹操よりも兄弟で争った事の方が多いくらいだった。
あの頃に青年だった自分は今赤ん坊である。ろくに動けもせず泣くことしかできない。
しかし奴は違う。
「顕甫!ひさしぶりだな!」
上気した顔で兄である袁譚(顕思)が部屋に入って来た。
その口調は兄弟に向けるものとは程遠く、まだ10歳にも満たない少年は目に狂気を宿らせて近づいてくる。
「顕思様!危ないですから刀をお納めください!」
と取りすがる従者を袁譚は刀で斬った。
鮮血で塗れた刃を、まだ歩くことも出来ない赤ん坊に付きつけて、袁譚は言った。
「お前さえいなければ良かったのだ!お前みたいな顔しか誇れるものがない無能が兵権を握ったせいで俺は曹操ごときに従って討たれたのだ!」
それはお前がそう思っているだけだろう!
袁尚はそう言いたかったが、あいにくと言葉が出ない。ただただ大声で泣くだけだ。
制止に入った部下も突き飛ばされる。
白刃がきらりと輝くと顔に灼熱のような痛みが走る。
顔を十字に斬られたのだと数秒かけて実感した。
「どうだ!これでお前の顔なぞ誰も魅力を感じない!お前が袁家の跡をつぐ可能性などこれっぽっちもなくなったのだ!」
はははははは!!と高らかに笑う袁譚。
その時に後ろから声をかける者がいた。
袁紹である。
肉体は若々しいがその表情は老人のようにしわがれており、何の感情もない顔だった。
だが、すさまじい達成感に包まれていた袁譚はそんな父の気配に何も感じられない。
ただ「父上!袁家は私がもりたてます!」と返り血で汚れた刀を高らかに上げて宣言するだけだった。
「そうか…」というと袁紹は腰に帯びていた剣を抜き放った。
途端に袁譚の胸元から鮮血が零れ落ちる。
「…父……上……?」
信じられないものを見るように袁譚は茫然と父を見た。
「孟徳の策に踊らされたそうだな。情けない。貴様のような役立たずはおらんで結構」
冷酷なまでに淡々とした声で袁紹は息子を見下ろしていた。
「袁熙よ」
およそ肉親に向けて良いわけがない声色で袁紹は異変を知って駆け付けていた次男を呼んだ。
「は、はいいぃぃぃ!!!」
「貴様は争いはしなかったが兄弟の争いを止める事もできなかったそうだな?」
「は、はい」
「情けないやつめ。そこいらの一兵卒と貴様では何の違いがあると言うのだ」
そう言われて袁熙は死を覚悟したのかガタガタ震えて口もきけない。
袁紹は ふう とため息をつくと
「次の後継者が決まるまでは、その命ながらえさせておこう。だが我が輩の跡はもっと優秀なものが継ぐ」と言った。
『そうだ!父上!袁家は私こそが相応しいのだ!』
袁尚は我が意を得たりと笑いだす。だが父はそんな息子を惜しそうに眺めて言った。
「お前ももう少し才能があれば考えも変わったのだが…」
は?何を言いだすのだ?
袁尚は耳を疑った。もう少し才能があれば?
あれは見苦しい兄のせいで失敗したのだ。
もっと早く跡継ぎを宣言していればこんな事にはならなかったのだ。つまりは父上、あなたの失態ではないか!父上がしっかり後継者を決めていれば私は全力を注いで仇を討てたのだ。父上が悪いのだと忌々しい顔で父を見上げる。そんな袁尚に父は
「割れた器は二度と戻らぬ。ワシの愛した尚も二度と戻らぬ。次の子供に期待しよう」
そういうと袁紹は家臣に命じて毒を用意させた。
何事も無かったかのように部屋はかたずいた。4人いた部屋に残ったのは2人だけだ。
「もしも何事かあれば熙に跡を継がせる。だが他に息子が生まれた暁にはその子供を後継とする。」
その言葉に袁熙はコクコクと何度も頭を上下させた。
こうして袁紹は後継者問題を片づけた。
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リバースの設定を思いついて考えてたら兄弟の仲が悪いと、この時点で詰む家と言うのも結構ありますなぁと気がつきました。
曹操の息子で魏の皇帝 曹丕は自分よりも優秀だった弟が死んだときに父親の曹操から「この子の死はワシにとって悲しい事だが、お前にとっては良い事だ」などという血も涙もない言葉を言われています。
また孫権も兄の孫策の跡を継ぎますが孫策の一族のその後は余り語られません。
天国と言うのは有るかは不明ですが、二度目のやり直しがある世界の場合、彼らの生き方はもう少し変わったでしょうか?
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