第2話;三国志一の暴れ者
「やい!そこのデカ物と大耳野郎!」
急な呼び声に振り向くと、後ろに5人の大男がいた。
「誰だ!!!」
張飛が大喝する。
虎さえもしり込みしそうな大声に、男たちはひるんだ。しかし人数が多いのをたのんで威圧的な声で続けた。
「俺は鄧茂だ!前回は遅れをとったが、今度はそうはいかねえぞ!」
どうやら、どこかの野盗らしい。
「張さん、どうやらあんたが倒した輩らしいが、どの将軍か心当たりはあるかい?」
「劉兄ぃ、こんな雑魚いちいち覚えているわけねぇじゃねえか」
「それもそうか」
「何をぶつぶつ言ってるんだ!そこの豚野郎!」
劉備は「危険近寄るな」と遠回しに教えてやっているのだが、男たちは一向に気づいた様子はない。
「あれ?兄さんたち燕人張飛をご存じない?どこの田舎から出てきなすったんで?」
豚という言葉に、男たちを殺害する事を決定した張飛をなだめながら劉備はおどけて言った。
これは別に『殺生をするな』という意味ではなく『情報を手に入れたいから情報を聞き出すまで待て』という配慮である。
「おれたちはここの生まれだよ!」
「へえー。私は黄巾の乱から40年後に死んだんだけど、兄さんたちはいつ死んだの」
「覚えてねえのかよ!!!今年だよ!!!そこの大豚野郎から不意討ちされて殺されたんだよ!このやろう!」
「殺した相手の顔くらい覚えとけよ!!!」
「益徳、思い出したか?」
「全然」
相手は怒っているが、目の前の怪物の活躍を知れば。すっとんで逃げ出しただろう。
本当に知らないという事は無敵である。
「おっかしいな長坂だったら、千人くらいぶっ殺したから覚えてないけど、今時分ならまだ数が少なかったから顔くらいは見てたはずなんだけどなぁ」
「おまえ、途中から顔も見ずに殺してたのか?よく味方を殺さなかったな」
「人間1万人も斬れば敵味方なんて殺気でわかるもんだぜ兄貴」
いいかげん「もしかして目の前の二人は非常にヤバい危険人物なのでは?」と感づいた鄧茂だが、引っ込みがつかない。
まごまごとしていると。
「そういえば、益徳。俺たち丸腰だなあ」
「そうだなぁ。愛用の蛇矛はこのあと張世平※の旦那の援助で作ったんだよな」
「あの旦那かぁ!懐かしいな。あの鋼の武器に比べたら数段落ちるがとりあえず刀位はほしいよなぁ」
「そうだな」
そう言うと張飛は弾丸のようにとう茂たちに飛びかかると、部下の男の一人をむんずとつかんで棒きれのように振り回した。
「ぎゃああああ!!!」
6尺(193cm)はあろうかという大男も張飛にかかれば羽衣のようなものである。
片手でジャイアントスイングをかますと、3人が巻き込まれて吹っ飛んだ。
「ぐえっ!!!!!」
「ぎゃっ!!」
「あぎっ!!」
それは実に見事な光景で、見た人間は『人間ってあんなに軽々と飛べるんだ』と錯覚するであろう。
「てっ!てめえっ!このや…うぉぉぉぉおおお!!」
160斤(80kg)はある男を叩きつけられ鄧茂は目をまわした。
「おー!さすが張飛。すげえ怪力だな」
やんややんやと劉備は喝采をあげる。
ふふん。と得意げに鼻をならすと張飛は男たちから刀を5本回収した。
そして俵のようにぶっとい両手の指二本で、両端を摘んで一本を何度も何度も折り曲げた。嘆息して一言。
「なんてえ弱っちい刀だい。これじゃ素手で戦った方がまだましだよ。」
だったら奪うなよ。
薄れゆく意識の中で鄧茂は文句を言った。
ちなみに鄧茂とは劉備の故郷涿県に侵略してきた黄巾賊。
最初に劉備に討伐された、程遠志の副将である。
三国志演義という物語で一番最初に戦場で殺害された記念すべき人間なのだが(1P25)本作を書くために読み返すまで筆者も忘れていた。
ちなみに程遠志は二番目で、これは関羽に殺されている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます