第5話
翌朝、俺は目覚まし時計以外の音で目覚めていた。
昨日までには有り得ないその音は、トントンという包丁とまな板の音で、当然台所から響いていた。
時間は5時を少し回った位で、俺からしてみればまだまだ睡眠時間という認識の時間だ。
「あれ?リョウ君早いわねーなに?なに?ゴハン作ってんの?って!弁当だし!」
朝からテンションマックスなこの声はヤエに違いない。
「タケのを作るついでだったので……良ければ……あの……」
あぁ、新婚ホヤホヤな嫁っぽい台詞だ。
それでも大学生な訳だから……男子学生の、しかも手作り弁当を持たされる25歳女性って構図は、なんだか少し面白い気がするぞ?
それにだ、紹介されたのが昨日なんだし、そんなまだ初対面と言っても過言では無い相手からの手作り弁当なんて、受け取るのも気を使う……。
「ありがとー食堂代ってイタイんだよねー」
何のためらいもなく受け取るのかよ!
この雰囲気だと、全員分の弁当が用意されているんだろうな……。
兄の恋人(男)の手作り弁当持参の男子高校生……登場人物が全員男ってむさ苦しいわ。
「あの、朝食も作ったんです……あの……だから、その……」
可愛そうな位緊張してるリョウの声は徐々に小さくなり、後はもうモゴモゴと何を言ってるのかさえ聞き取れない程にまで……これ、コミュニケーション能力低過ぎないか?こんなんでよくタケは一緒になろうって所にまで話しが出来たもんだ。
もしかしたら人見知りが激しいだけで、慣れたら多弁になるとか?
まぁ、関係ないけど。
「弁当箱、洗って返すからねー」
洗って返さないバージョンがあるのかよ。
慌しくヤエが出勤して行き、全員分の弁当を作り終えたんだろうリョウが2階に戻っていってしばらく。ウトウトと二度寝をした俺は、今日もちゃんと目覚まし時計の音で覚醒した。
恐る恐る台所に行き冷蔵庫を開けると、弁当箱が4個入っていた。それ以外にも弁当で余ったおかずなんだろうな、卵焼きとかウインナーとかが皿に盛られた挙句、丁寧にラップにかけられて入っている。
しっかりと4等分。
良かったら食べて。という控えめな台詞にも拘らず、食えよ。という強制的な意志を感じさせる光景だ。
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